5 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』
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- 2024年7月2日
- 読了時間: 6分
Thomas N. Seyfried
Cancer as a Metabolic Disease
On the Origin, Management, and Prevention of Cancer
John Wiley & Sons Inc.
2012
日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日
第五章 がん細胞の呼吸機能不全
もしワーブルク理論が正しいなら、全てのがん細胞でミトコンドリアの呼吸不全が起きるはずだ。 ワーブルクは酸化的リン酸化(オクス·フォス、呼吸)の損傷ががんの起源であると考えた。ミトコンドリアに注目すると、正常細胞は規則正しいヒダ状の構造があるが、がん細胞はヒダ状構造が壊れている。
正常なミトコンドリア
ミトコンドリアは有酸素呼吸でエネルギーを生産する糸状や粒状の器官で、赤血球以外の全ての細胞に数個ある。滑らかな外膜とヒダのある内膜の二つの細胞膜がある。呼吸によるエネルギー代謝は、内膜の中で行われる。
ミトコンドリアにはたくさんの酵素が入っていて、クエン酸·脂肪酸サイクルなどの活動をしている。ミトコンドリアは自己複製でき、自分自身のDNAや酵素などを持っている。
がん細胞のミトコンドリア
がん細胞のミトコンドリアは、正常細胞と比べて、数が少なくサイズも小さく、呼吸能力も低い。ヒダがなかったり不揃いであったりする。そのせいで十分な呼吸ができずエネルギーを供給できない。ワーブルクによれば、こうしたがん細胞では呼吸不全の結果、有酸素ブドウ糖発酵がスタートする。
合理的に考えるがん研究者が、こうした発見をがんの起源と無関係であると見なすとは考えにくいが、現在でも学界では無視されている。逆に、がん細胞の遺伝子の突然変異の結果、ミトコンドリアの全ての異常が発生するとは考えにくい。長引く呼吸不全の結果、細胞が生き延びようとして、がん遺伝子とがん抑制遺伝子に変異が生じると考える方がわかりやすい。
がん細胞のミトコンドリアのタンパク質の異常
悪性腫瘍はエネルギー不全によるものである。がん細胞のミトコンドリアの呼吸活動は異常であり発酵が増える。
他方、遺伝子の変異だけでは、がんの悪性度の違いは説明できない。遺伝子の変異は良性の肝がんでも見つかったが、悪性の腎臓がんなのに遺伝子の変化が見つからないものもある。驚いたことに、研究者たちは、自分たちのデータを腎臓がんの遺伝子欠陥モデルに無理やり当てはめようとしている。ワーブルク理論で説明しようとはしていない。彼らのデータは、細胞の呼吸不全で実に説明しやすい。
がん細胞のミトコンドリアの脂質総体(リピドーム)の異常
がんがミトコンドリアの呼吸不全によって発生するというワーブルク理論では、がん細胞のミトコンドリアでタンパク質だけでなく脂質にも異常があると見なす。脂質異常は、ミトコンドリア機能に支障をきたす。内膜の脂質異常は呼吸能力を左右する。
正常細胞のミトコンドリア内膜にはコレステロールがあまりない。コレステロールは、肝がん細胞の方が著しく高い。コレステロールは膜の流動性を減らすので、ミトコンドリア膜の流動性も失われる。
ミトコンドリアの脂質
カルジオリピンはミトコンドリアだけにある複雑なリン脂質で、酵素の活動、特にオクス·フォスと呼吸の活動を制御している。カルジオリピンの変化は細胞呼吸に影響する。
カルジオリピンとがん細胞の異常なエネルギー代謝
ネズミの正常細胞とがん細胞を比較したところ、カルジオリピンの内容と組成が大きく異なることがわかった。がん細胞のミトコンドリアにはカルジオリピンが半分以下、または完全に欠落していた。
カルジオリピンの異常が、脳腫瘍の異常なエネルギー代謝の背後にある。これはワーブルク理論の信頼性を高めたことになる。カルジオリピンが異常ながん細胞において、ミトコンドリアの呼吸が正常に機能するとは考えにくい。
カルジオリピンの異常はがん形成の原因なのか結果なのか。がん細胞はカルジオリピンに異常がある。どちらの場合でも、カルジオリピンの異常はミトコンドリアの呼吸を大きく損なう。
脂質とエネルギーに対する培養環境の影響
実験室環境のせいで、正常細胞とがん細胞との脂質異常が見えにくくなっている。正常細胞の呼吸機能は正常だが、がん細胞の呼吸は損傷しているように見える。これを見分けるには、生体内において呼吸機能を比べる必要がある。呼吸機能が損傷していれば、細胞はサバイバルのために発酵でエネルギーを生産することになるが、発酵を強化すれば、細胞は機能分化を止め、無制限の細胞増殖を始める。
そもそも実験室の培養環境は脂質異常を生むので、呼吸によるエネルギー代謝を混乱させる。そして変化したエネルギー代謝と発がん性との関係をわかりにくくしてしまう。
まとめとして、脂質カルジオリピン(CL)の異常は呼吸によるATP生産を減少させる。CLの異常は、がん形成過程で生じる。多くの研究者は、いまだにがん細胞がオクス·フォス(細胞の呼吸)を行っていると考えている。CL構造の変化はオクス·フォス効率を低下させ、がん細胞のゲノム的不安定をもたらす。
がん細胞の発熱と切り離されたミトコンドリア
ミトコンドリアの褐色脂肪は、熱を発生させる。発熱は、損傷しエネルギー面で切り離された(機能しなくなった)ミトコンドリアの特徴なので、がん細胞の発熱の方が大きいか測定することは重要である。ブドウ糖の消費も発熱もがん細胞が多い。
個人的な視点
呼吸機能が損傷しているがん細胞は、解糖系を活発化させない限り死んでしまう。しかし解糖系の推進はがん促進遺伝子の活性化を伴う。
サマリー
がん細胞のミトコンドリアの機能は異常になっている。しかしがんの専門家ががん細胞のオクス·フォス機能(呼吸)の欠陥を認めない理由はいくつかある。まずがんに関するワーブルク理論を聞いたことのないがん研究者やがん専門医が数多くいる。これには全く心穏やかになれない。私は直接多くのがん研究者と臨床がん学者と話したことがあるので、無知な専門家が多いことはよくわかっている。がん専門家が病の起源を知らなかったら、どうやってがんの管理と予防が前進するだろうか。原著論文を読まずに第三者からの情報で満足している人が多くて驚くばかりである。さらに、自らのデータがワーブルク理論を実証しているにも関わらず、それを認識できない人がいる。がん細胞の呼吸は正常であると思っている専門家が何人もいる。
私は正常細胞とがん細胞の呼吸機能は異なると確信している。次の章では、がん細胞の呼吸とオクス·フォスが正常であるとする研究の欠点を指摘したい。
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