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0の補足 シーフリード『がんを餓死させる』 ペダセン博士の前書きとシーフリード博士の序文

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  • 2024年7月19日
  • 読了時間: 8分

Thomas N. Seyfried

Cancer as a Metabolic Disease

On the Origin, Management, and Prevention of Cancer

John Wiley & Sons Inc.

2012

日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年7月18日



ペダセン博士の前書き

がんは死に繋がる重大な病として、今日、ますます多くの人の命を危険に晒している。親戚が誰もこの陰湿でひどい病気にかからない人はほとんどいないだろう。工業国では今世紀中[もっと近い将来]に、死因として心臓疾患を追い越すと予想されている。私は1960年代後半からがんの代謝を研究し幅広く出版してきた。シーフリード博士のことは個人的には知らないが、がんの異常なエネルギー代謝に注目した彼の研究には感銘を受けている。私はずっと前から、ミトコンドリアと有酸素解糖系ががんの成長に決定的な役割を果たすことを知っていた。ノーベル賞受賞者のオットー・ワーブルク博士は、20世紀前半に、細胞呼吸の障害と補完的発酵(解糖系)が全てのがんに共通する特徴であるとする証拠を初めて見つけ、そのせいでコントロールできない増殖と進行が起きると理解していた。ワーブルクのがん理論ほど論争を起こしたテーマはない。ワーブルクはがんが呼吸不十分と補完的発酵に伴う病気であると指摘した点で正しかった、と本書でシーフリード博士が実証できたのは素晴らしいことである。私は、本書で触れられている多くの研究者を直接知っている。特にディーン・バーク、ピーター・ミッチェル、シドニー・ワインハウス、そして私の上司で学部長だったアルバート・レーニンガーとは親しかった。にも関わらず、研究を始めた当初、エネルギー代謝ががん研究で重要であると考えていた私は、ずっと孤独だった。DNA技術の専門家だったある同僚は、レーニンガー博士の「ワーブルクのフラスコ」が時代遅れのがん研究を象徴するものであると言ってゴミ箱に投げ込んだ。このことは今でもよく覚えている。その同僚にとって幸運だったことに、レーニンガーは当時すでに学部長ではなく、また私にとって幸運なことに、そのフラスコをいくつもゴミ箱から救い出せた。シーフリード博士の本を読んで、ワーブルクのフラスコは蒐集の価値のあるものになると思っている。


1970年代半ば、がん研究は道を大きく逸れてしまった。研究者たちが代謝病ではなく遺伝子病であると考え始めたからである。がん細胞の代謝異常は、ゲノムの不安定の結果生じると考えられるようになっていった。シーフリード博士は、膨大な証拠を列挙しながら、遺伝子だけががんの原因であるとする学説を論駁した。彼は、がんの進行がダーウィン的であるとする仮説を批判し、むしろラマルクの用不用説の方が合致するのではないかと指摘している。総合的に見て、遺伝子だけががんの原因であるとする現在主流の考えが矛盾しているせいで、がんとの戦いと毒性のない治療法分野の研究で進展が見られないと言える。シーフリード博士の大切なポイントは、がんのゲノム的不安定が、がんの原因ではなく結果として生じているとする点である。代謝病と見た場合、がん治療にはいくつも安価で効果的な治療戦略が可能になる。このことは、私も直接体験している。私の研究室のヤン・コー博士は、ブロモピルビン酸(3BP)に強力な抗ガン作用があることを初めて突き止めたからである。これは実験動物とがん患者のいくつものがんによく効く安価な抗がん剤として、がん細胞のエネルギー代謝を叩き、成長に必要なATPを枯渇させてしまう。効果的な用量で使用すれば、正常細胞には毒性がない。本書には、エネルギー代謝を攻撃するいくつもの薬でがんをコントロールできるとする証拠が示されている。さらに、がんのエネルギー代謝に不可欠なブドウ糖とグルタミンを制限すれば、がん細胞の増殖と転移を抑えられる。遺伝子説は、がんが単一の病ではないと主張して、私たちを騙してきた。確かに腫瘍の成長速度はバラバラである。しかしがんは異常なエネルギー代謝による単独の病である。これはワーブルクが最初から指摘したことであり、私を始め最近の多くの研究者が生化学的分析によって示していることである。シーフリード博士は、この点を徹底的に追求している。


本書は、ワーブルク理論に基づき、がんが代謝病であると指摘している。特徴的なのは、がんのあらゆる問題が、不十分な細胞呼吸と補完的発酵に端を発すると指摘している点である。がんが不治の病であるのは、起源と生物学と代謝に関する誤解があるからである。シーフリード博士の分析で、私たちの理解が一新され、3BPのようなより効果的な治療法が開拓されることを期待したい。


メリランド州バルティモア

ジョンズ・ホプキンズ大学医学部

生化学教室教授

ピーター・ペダセン博士




シーフリード博士の序文

がんは現代社会の伝染病に当たる。私は、がんのコントロールも予防も全然進展しないので、本書を書くことにした。私は生化学遺伝学者として1980年代始めから、がんの脂質生化学の研究を続けてきた。脳腫瘍や転移性のがんに関するネズミ・モデルをいくつも考案してきた。本書のきっかけとなった発見がいくつかあった。まず、抗がん剤は、どれもカロリー制限で治療効果を上げている。2番目は、カロリー制限すると、増殖や転移のようながんの特徴を狙い撃ちできる。3番目は、正常細胞がケトン体を代替エネルギー源として活用でき、ブドウ糖やアミノ酸がなくても生き延びられる。4番目は、転移性のガンがマクロファージ系列の細胞から発生する。5番目は、あらゆるガン細胞において、ミトコンドリアのエネルギー代謝に欠陥がある。そして最後に、代謝病であることがわかれば、がんは効果的にコントロールでき、予防もできる。


がんが代謝病であることがわかると、なぜこれほど多くの患者ががんで死ぬのかわかった。現在の治療法ががん細胞のエネルギー代謝を助けることになり、がんが進行し、やがて増殖や転移をコントロールできなくなるのである。がん患者はがんと戦う代わりに、がんと戦う体力と気力を奪うような有毒な薬物を処方される。がん治療は、がんそのものと同じくらい恐れられている。さらに、がんが遺伝子病であるとする見方も、問題を複雑にし、効果的な治療法の開発を妨げている。遺伝子病であるとする見方は、体細胞の突然変異からがんが生じるとする間違った考えに基づいている。数々の証拠から、ゲノムの不安定は長引く細胞呼吸の不足から生じることがわかっている。ひとたびがんが代謝病で代謝的解決法があるとわかれば、もっと人間的かつ効果的な治療戦略が出てくるだろう。本書はがんが代謝病であると指摘し、遺伝子病であるとする従来からの見方の矛盾を突くものである。さらに、本書は、全米がん研究所の提起する未解決問題に解答を出し、がんの解決の基礎となるものである。


データを集め本書の概念を練り上げる上で、私を助けてくれた多くの学生と同僚に感謝したい。特にメアリー・ルイーズ・ロイ(科学修士、1987年)、ミシェル・コッテリーチョ(科学修士、1992年)、モーガ・エルアバディ(博士、1995年)、ホン・ウェイ・バイ(博士、1996年)、ジョン・ブリガンド(科学学士、1989年、科学修士、1992年、博士1997年)、ジェフリー・エクセディ(博士、1998年)、マーク・マンフレディ(博士、1999年)、マイケラ・レインズ(科学学士、1998年、科学修士、2000年)、ディア・バナージー(科学修士、2001年)、マイケル・ジュレイジ(科学修士、2006年)、クリスティン・デニー(科学学士、2005年、科学修士、2006年)、ウェイフア・ゾウ(科学修士、2006年)、ローラ・アバティー(博士、2006年)、マイケル・キービッシュ(博士、2008年)、リーアン・フイセンチュルート(博士、2008年)、ジョン・マンティス(博士、2010年)、そしてローラ・シェルトン(博士、2010年)に感謝したい。精力的に研究してくれている在籍中のリン・ターとゼイネップ・アクゴックにも感謝したい。学部生にも感謝したい。特にキャサリン・ホルトハウス、ジェレミー・マーシュ、ジェフリー・リン、ウィル・マキス、ティアナン・マルルーニー、トッド・サンダソン、トッド・シーマン、リサ・マホーニー、ミシェル・レバイン、エミリー・コギンズ、エリン・ウォルフ、イバン・ウリッツ、タリン・ルロイとエミリー・ゴーディアーノに感謝している。私の「がん研究の最近のテーマ」の授業でコメントしてくれた学生にも感謝したい。


ボストン・カレッジ生物学部の同僚、特に、トマス・チャイルズ博士、リチャード・マクゴーワン神父博士及びジェフリー・チュアン博士に感謝したい。技術面ではロバート・K・ユー博士、ジェイムズ・フォックス博士及び息子のニコラス・T・シーフリード博士に感謝している。挑発的な論争を挑んでくれたアブター・ルーパにも感謝している。サンフォード・パレイ博士、ハリー・ツィママン博士及びアラン・イェイツ博士の激励と支援に感謝する。パーナ・マカージー博士とロベルト・フローレスには特に感謝したい。パーナは初めて私にカロリー制限の絶大な治療効果を教えてくれた。血管新生と炎症分野での彼女の見事な研究が、がんの予防と治療に効果のある食事エネルギー制限の仕組みを示してくれた。ロベルト・フローレスはがんの代謝的起源を支える真実を明らかにするとともに、遺伝子起源説の矛盾を示してくれた。最後に、1985年から2008年まで23年間私を雇用するとともに、実験動物の高額な維持管理費用を支援してくれたボストン・カレッジに感謝する。本書のデータ収集は、大学のこの絶大な支援なしには不可能だった。これは他者への献身というイグナチオ教会の思想に沿うものである。


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