3 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』
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- 2024年7月1日
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Thomas N. Seyfried
Cancer as a Metabolic Disease
On the Origin, Management, and Prevention of Cancer
John Wiley & Sons Inc.
2012
日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日
第三章 がんの実験モデル
がんのモデルに関する問題
人間のがん治療に役立つ理論や実験動物は、良い「モデル」として、病気の仕組みを明らかにし、新治療法の開発につながる。しかし、特に、転移するがんを示せる理想的なモデルは見つかっていない。
転移モデル
がんの転移について、良い動物モデルがなくて残念である。最近、がんの六つの特徴のうち、転移以外の五つ全てが、良性腫瘍にも当てはまることがわかってきた。この点を無視してきたため、がんとの闘いで勝てないのである。
がん細胞が転移すると、管理や長期的治療計画はできなくなる。しかしがんモデルは転移を説明できないものが多い。例えば、がん細胞を直接血管に注入する実験は、生体での転移とかけ離れている。
ゼノグラフト·モデル
「異種移植片」(ゼノグラフト)モデルは、免疫力の弱いネズミに人間のがん細胞を移植する。ゼノグラフトモデルが生体内の環境とかけ離れていることを知っている研究者が、高価なゼノグラフト·モデルを使うのは、論文審査や研究費獲得に際して、審査委員がゼノグラフト·モデルを求めるからである。
遺伝子的モデル
その他の遺伝子がんモデルはネズミを使う。しかし、治療につながるがんを製造できたことはない。遺伝子的がんモデルは、理論的美しさを優先するあまり、実際に起きる転移とは別物になっている。
細胞培養モデル
実験動物のモデル以外では、培養皿に移植したがん細胞を使う。しかし生体から離れれば離れるほど、人体で起きることと関連づける時に気をつけなければならない。細胞培養モデルは価値があるが限界もある。
自然モデル
最善なのは自然に発生するがん細胞で、元々の動物の同じ部位で育てられたものである。がんの核心的な特徴を示すモデルがあるならそれを使わない手はない。
優秀ながんモデルとは、人間の病気の特徴を示すがん細胞である。転移で亡くなるがん患者が一番多いので、広範な侵襲、増殖及び転移を模倣するモデルを使うべきである。
がん研究の主要な障害としての動物の費用
動物を維持管理する費用は高額になり、がん研究にマイナスの影響を与えている。高額すぎて研究計画に動物研究を組み入れられなくなってきた。その結果、がん研究に動物を使わない研究機関が増えてきた。培養基で研究する方が安上がりだからである。
がんの分類の問題
私(シーフリード氏)は、一九八〇年代始めイェール大学の専任教員だった時代から、分類学を信用できなかった。何人もの専門家のがん診断が食い違うのを目の当たりにしてきたからである。これは驚くには当たらない。がんの診断は主観的なのだった。特に脳腫瘍の治療では、五〇年以上ほとんど進展がない。
がん細胞の生物学的な分析が、もっと重視されて良い。がんの良いモデルは、組織的分類ではなく生体内成長の面から評価されるべきである。
がんに関する個人的な見方
いくつかの大きな出来事ががんに関する私の見方を変えた。一つ目は、がんの増殖と血管新生における細胞エネルギーの制限に関する研究、二つ目は、実験ネズミの自発的脳腫瘍の分析、三つ目は、腫瘍内のミトコンドリアの脂質の実験である。明らかになったのは、全てのがんが、エネルギー代謝の不調から発生する単一の病気であるという点だった。組織学的な違いはあっても、全てのがん細胞はエネルギーを遮断することで確実に死滅させられる。
私の見解は、がん治療が遺伝子の分析によって個別化(パーソナライズ)されるべきであるという従来からの見解と根本的に対立する。私の視点は、オットー·ワーブルクの見解と似ている。彼は、全てのがんが呼吸の病であると初めて提唱した人物である。さらに私たちは、転移性のがんが骨髄由来の細胞と酷似していることにも気づいた。骨髄細胞はマクロファージや白血球などの免疫力に関わる細胞である。マクロファージと白血球は特殊な細胞で、他の細胞組織に出入りでき、酸素がなくても生きられる。これらは転移性がん細胞の特徴でもある。がんの理解を拡大して、細胞のエネルギー代謝の不備ががんの予防と治療に活用できるか示したい。
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