21 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』
- yd
- 2024年7月2日
- 読了時間: 5分
Thomas N. Seyfried
Cancer as a Metabolic Disease
On the Origin, Management, and Prevention of Cancer
John Wiley & Sons Inc.
2012
日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日
第二一章 結論
サイエンス誌は最近全米がん法施行四〇周年記念号で、この分野の現状を概観する一連の論文を掲載した。ニクソン政権でこの法律が試行されて、がん研究は大いに勢いづいた。ところが、その膨大な努力にも関わらず、一九七一年の疑問は、二〇一二年になっても未解決のままである。例えば、がん細胞の染色体数の異常はどうして生じるのか。がんはどの細胞から始まるか判別できるか。免疫システムを操作して、がん細胞が外来の侵入者であり、除去されるべきものと認識させることは可能か。ウイルスは人間のがんの発生に役割を果たしているか。最後のウイルスの質問には明らかにイエス、ウイルスはがんの発生に関わっていると答えられるが、その他の質問に対する答えは出ていない。しかし本書で見てきたように、私は全ての疑問に解答が出せると確信している。
第一〇章で示したように、がん細胞の染色体数の異常は、細胞の呼吸不全で発生する。細胞を安定させがんを防ぐのは、ミトコンドリアの呼吸能力である。
第一三章の情報から、がん細胞は骨髄細胞の呼吸損傷から生まれる。がん細胞は、骨髄起源の細胞と融合しなければ転移しない。
第一三章と第一七章でわかったように、転移がんは免疫システムの細胞(マクロファージ)から発生する。腫瘍性でないマクロファージに腫瘍性のマクロファージを外敵と認識させるのは難しいが、エネルギー代謝と食作用能力を標的にすることで転移細胞は除去できる。
サイエンス誌の記念号では、どうやって分子標的薬を組み合わせて抵抗力のあるがんを止められるかに誌面を割いていた。「最も成功した標的治療薬でもやがて効力を失う。研究者はどうして薬ががんに効かなくなるのか解明しようとしている。彼らは患者の生存期間を何か月から何年に伸ばそうとしている」。私はこうした声明に強い抵抗がある。転移がんの治療薬は、長期の生存をもたらすべきだが、よく効く標的薬は存在しない。従って、がんの特効薬があると言うのは誤解を招くだけである。
がんがどうやっていわゆる「よく効く治療薬」から逃れるかは明らかである。がん細胞は、発酵能力を維持できる限り生き延びられる。発酵することでエネルギーを生産できるので、がんは治療薬が投与されても生き延びられる。がん細胞は発酵できなければ死ぬ。いくつの標的薬が、実際にブドウ糖発酵とグルタミン発酵を同時に封殺できるか。そういう特効薬はまだ見つかっていない。また、ある間違った説明によれば、異常な増殖は、細胞内の異常タンパク質によって促進されると言う。しかしこれはナンセンスである。増殖は細胞の元々の状態である。呼吸することにより、成長を調節し機能分化し安定した状態を維持している。むしろ、発酵が無制限の増殖を促進する。制御されないがん細胞の成長は、異常なタンパク質によってではなく、発酵を伴う呼吸不全によって進む。ひとたびこのコンセプトが広く受け入れられるようになれば、合理的な薬物治療が実現するだろう。
がんが細胞レベルのエネルギー代謝に問題がある病であるとする私の見方は、がんに関する主流の見方ではない。主流の見解は、がんが複雑な遺伝子の病であると見なしている。サイエンス誌記念号の論文を熟読すれば、私の立ち位置がわかるだろう。この記念号にがんのエネルギー代謝のことは全く書かれていない。第一〇章で触れたように、がんの起源について細胞のエネルギーを議論しないのは、太陽系の起源について太陽の役割を議論しないのと同じである。同じ質問が四〇年後の現在になっても解決していないことは驚くべきことだろうか。がんゲノム·プロジェクトで開発された分子標的治療薬は高価な時間の無駄だった、と驚くべきだろうか。進行がんのマネジメントでほとんど進展がないことに驚くべきだろうか。私は驚かない。
次のリストは、この本のまとめである。いくつかは検証が必要だが、どの項目も裏付けがあり、いずれ正しいと確認されるだろう。
主な結論
1 進行性・転移性のがん治療は、四〇年以上、真の進展が見られない。毎日の死者数は一〇年以上ほとんど減っていない
2 これまでの治療法は、非転移性のがんに関するものがほとんどだった
3 全てのがんは、細胞レベルでの発酵を伴う呼吸の不足による病である
4 呼吸不足とがんを発生させるきっかけとして、年齢、ウイルス感染、低酸素、炎症、稀な遺伝的変異、放射能及び発がん物質などの要因がある
5 がん細胞に見られるゲノム的不安定さは、呼吸不足と発酵強化に伴って生じた症状である
6 ゲノム的不安定さがあると、がん細胞はエネルギー不足のストレスに耐えられない
7 がん細胞の方が正常細胞より成長しやすいわけではない
8 がんの成長はダーウィン的ではなくラマルクの用不用説で説明できる。環境に応じて,よく使用する器官はさらに発達し遺伝する
9 がんは遺伝子の病ではない
10 がんが様々なきっかけで発症するのに似通った増殖や転移をするという逆説は、呼吸系の損傷によって説明できる
11 転移性のがんは、おそらくマクロファージと新生物上皮細胞との融合化を伴い、骨髄から発生した細胞の呼吸の損傷から生じている
12 がん細胞はエネルギー源としてブドウ糖とグルタミンに依存する
13 ブドウ糖とグルタミンの摂取が制約されると、がん細胞の成長と生存が危うくなる
14 発酵強化により、がん細胞の薬物耐性が高くなる
15 ミトコンドリアを酸化被害から守ることでがんを予防し、がんのリスクを減らせる
16 がんを予防しコントロールするためには生活様式の変更が必要である
17 ブドウ糖とグルタミンの代謝を阻む薬を併用するミトコンドリア強化療法が、有毒でない低価格で効果のあるがん治療法として、顕著な効果を発揮する
18 がんがエネルギー代謝の病であると認知されれば、がんの管理と予防に関する新時代が到来する
完
コメント