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20 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』

  • 執筆者の写真: yd
    yd
  • 2024年7月2日
  • 読了時間: 25分

Thomas N. Seyfried

Cancer as a Metabolic Disease

On the Origin, Management, and Prevention of Cancer

John Wiley & Sons Inc.

2012

日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日



第二〇章 ケトン食の経験的事例

 本章は、がんマネジメントの実例を紹介する。がんが細胞の呼吸障害に関わる病なら、この不具合を活用するのが効果的な治療になる。がん細胞へのブドウ糖とグルタミンを断つことが、治療のカギである。この二つの燃料は、がん細胞の発酵燃料になる。


ケースその一 小児科がん患者のケトン食: リンダ·ネベリング博士のコメント

 私たちは、二人の小児科がん患者の食事内容を研究しました。ケトン食の実施は、てんかん発作のケトン食治療に関する膨大な文献が参考になりました。このプロジェクトでは、脳腫瘍を持つ子供にケトン食を採用できるか調べました。高脂肪のケトン食は、がん細胞のブドウ糖利用率に影響するかどうか。この食事制限に基づき放射性同位元素を使って確認したところ、ブドウ糖の利用は継続的に減少しました。理論上、ブドウ糖利用率ががん成長率に影響します。但し、この実験はがんの成長を逆転させたり、がんを治療したりすることは目指しませんでした。

 

食事療法を導入した時の教訓

 この実験は、子供たちの症状は安定していて、食事を食べることができ、両親と介護者がいる自宅環境で実施しました。ケトン食の実施には、経験豊かな栄養管理師が、一人ひとりのケトン体の濃度をモニターする必要がありました。四日ないし六日間かけて徐々にこの食事を導入したので、吐き気、嘔吐、下痢あるいは便秘のような消化器系障害は見られませんでした。自宅で一定期間この食事を継続するには、介護者の熱意と訓練が欠かせません。


患者の選抜と食事への反応

 ケトン食は、これまで何十年もの間、薬の効かないてんかんの子供の発作をコントロールするために効果を上げてきました。今回参加した子供たちは、化学療法の効かないがんがあり、手術の可能性は低く、てんかんも経験していました。食事制限を始めた当時は、放射線治療は受けていませんでした。治療計画は短期集中型で実施しました。毎週、血清脂質、ブドウ糖、ケトン、インスリン、及びタンパク質レベルをモニターしました。

 予想通り、ケトン値はケトーシスの度合いと食事管理に極めて敏感でした。膨大な支援と指示が出され、定期的な訪問チェックもやりましたが、ケトン食は完璧には守れませんでした。間違ったスナックや缶ジュースのせいで、しばしばケトーシスを維持できず、患者も介護者も、その翌日に食事管理を見直すことになりました。ケトン食を食べること自体は難しくありませんでしたが、ケトーシス対応のクッキーが開発されていれば、もっと順調に管理できたでしょう。脂質レベルは悪くなく、毒性は記録されませんでした。

 一人の患者は、ケトン食を始める前に何度もてんかん発作を起こしていましたが、ケトン食の期間中は発作は起きませんでした。医療チームと介護者によれば、全体に生活の質が向上しました。


学んだこと

 ケトン食により、患者はエネルギーと栄養を確保できました。食事への適応は四~五日以内に大した困難もなくできるようになりました。進行した転移がんの子供が、食事制限によってケトーシス状態に移行できたことは大きな成果でした。一人の子供が風邪や鼻腔感染症で病気になった時、ケトーシス状態を維持するために食事を修正する必要が発生しました。低炭水化物のビタミンとミネラルサプリメントは栄養を十分摂るために必要でした。期間中カロリー量と体重は大体安定していました。血糖値は正常値未満に下がりました。ケトン値は二〇~三〇倍に上昇しました。

 可視化技術ががん部位のブドウ糖利用率を測定するのに役立ちました。ブドウ糖の利用は、二名とも約二二%減少ししました。

 この研究では、サンプル数が限られ、統計処理できませんでした。また、食事制限を無理なく実施できる家庭環境にある子供患者の選定に二年以上かかりました。数値化する可視化技術は、食事制限を評価する上で大きな資産でした。

 この研究を発表すると、新たな理解が広がりました。ケトン食に対する関心は高く、世界中の患者とがん研究者から問い合わせがあります。但しケトン食は、現在はまだ補助的療法と考えられています。


全米がん研究所

がんコントロール·人口科学部

行動研究プログラム

健康行動研究課チーフ

リンダ·ネベリング博士 (Ph.D., MPH, RD, FADA)



ケースその二 ラフィーの物語: ミリアム·カラミアン

 二〇〇四年一二月、四歳の息子ラフィーは脳腫瘍の診断を受けました。生検の結果は初期の神経膠腫(脳腫瘍)の診断でしたが、巨大で難しい場所にあり極めて攻撃的であることから、予後がよくないと診断されました。私たちは即座に外科手術、放射線療法、化学療法の標準治療を選択しました。残念なことに標準治療は効果が出ず、新治療法はすぐには見つかりませんでした。私たちは標準治療で子供が具合が悪くなるのを見守る他ありませんでした。視力、言語、認知、運動能力、及び内分泌系機能が衰えていきました。生活の質に大きな影響がありました。小さな戦士は言われたことは全てやってくれましたが、常にがんが優勢でした。

 二〇〇七年三月、私たちの世界が突然変わりました。トマス·シーフリード博士を中心とするボストン·カレッジの研究者たちが、食事制限療法を公表したのです。これは、がんのエネルギーとなるブドウ糖を減少させることで、病気の進行を遅らせることができるという治療法でした。

 がん組織がブドウ糖で生きることは一般に知られていますが、この研究は炭水化物摂取とがんの進行に関係性があることを示唆した最初の研究でした。進行したがんの二人の子供に関する研究は、ケトン食が子供の栄養を満たしながら、がんのブドウ糖摂取を減らせることを確認したものでした。ケトン食が八〇年以上、子供のてんかんの治療に成果を上げてきたことも知りました。もっと攻撃的な標準治療は失敗したが、このシンプルで新しい食事療法は成功するでしょうか。

 ラフィーの状態は悪化するばかりでしたが、私たちのがん専門医は食事制限の議論は受け入れませんでした。数週間リサーチしたあと、私たちはケトン食を自分達で始めることにしました。医師や患者の親や、てんかん治療に古典的ケトン食を推進する団体からの情報を繋ぎ合わせて準備しました。親向けのオンライン·サポートグループがこの治療法実施に関する実際の課題と戦略を教えてくれました。この時点ですでに六か月以上家を離れていたので、モンタナの田舎に戻ることにしました。ラフィーの小児科医と地元のがん研究者は、食事療法に賛成してくれました。彼らは懐疑的ではありましたが、ケトン食は害にならない治療法であると見なして、併用するなら支援すると同意してくれました。数日後ラフィーは低用量低毒性の化学療法を始めました(但しこの治療法は、今までもがんの成長を止められなかったものでした)。

 この弱い支援体制の中で、最初の数か月、私たちはいくつもハードルをクリアしました。奇跡的にも、三か月後のMRI画像でがんは一五%縮小していました。私はチャーリー財団専属ケトン食専門家のベス·ズーペック·カニア氏に助けを求めました。ベスはたくさんの質問に答え、私たちの計算の誤りを訂正し、財団のウェブに公開されている食事メニューツールを使わせてくれました。今や私たちは、優しい穏やかなマネジメント戦略に直接関わる親·専門家集団の一員になったのです。

 やがて、ラフィーのがん専門医は化学療法を止め、ケトン食単独で治療を継続することになりました。その後数年間ラフィーの健康は改善し続けましたが、究極的にはがんと標準治療による損傷は進行し病状は悪化していきました。私たちは、「もし最初からケトン食が治療の一環として提供されていたら結果はどうなっていたか」と自問しました。

 息子の診断から六年以上経ちますが、絶望的な知らせに伴う痛みを追体験せずに最初の数か月のことを思い出すことはできません。ケトン食のおかげで、私たちは主体的に行動できるようになり、息子の生活の質を高めることができました。この治療の成功にも関わらず、ほとんどの医療関係者は、ケトン食が難しすぎるとか、制限がきつすぎるので現実的でないと見なしています。確かにケトン食は万能ではありませんが、治療法を選ぶときに最初から選択肢に入れるべきものと強く確信しています。


がんの食事療法としてのケトン食

 ケトン食に関するラフィーの成功は私の人生を変えました。まず何より、無駄に苦しまなくなり生活の質が向上しました。また、私が介護者として工夫してきたことを伝えることで、他のがん患者を助けられるようになりました。そのために猛烈に勉強して、人間栄養学の修士号も取得しました。

 正常細胞とがん細胞のエネルギー代謝がよくわかるようになると、食事療法の長所もよく理解できるようになります。患者は、脳や中枢神経でさえ、ケトンを上手に活用しながら、必要十分なブドウ糖を生産しているのでした。

 残念なことに、ほとんどの健康専門家が、固定観念を変えようとしないこともわかりました。彼らは、患者が食事制限を試そうとしても猛然と妨害しようとするのでした。


ケトーシスを理解する

 大学院で勉強する中で、私は食事によるケトーシスが異常なことではなく、驚くべき適応段階であると理解できました。ヘルスケア専門家は、健康的な「良性のケトーシス」と病的な「糖尿病性ケトアシドーシス」との違いを知りたがっていました。前者は炭水化物を制限した時のケトーシスで、後者は糖尿病がコントロールできていない時の生命に関わる危険な状態です。

 細胞は様々な物質からエネルギーを得ますが、正常な状態ではブドウ糖が主たる燃料です。ブドウ糖になる炭水化物が足りなくなると、肝臓が脂肪を三種類のケトン体に転換します。その一つが細胞のニーズに特に合っています。もう一つ別のベータ酸化というプロセスも、燃料として脂肪を活用し、筋肉のエネルギー需要をまかないます。タンパク質の成分であるアミノ酸は、通常は組織の修復と維持に回しますが、必要があればブドウ糖生産に使えます。

 炭水化物を摂取しないようにすると、肝臓はブドウ糖の必要量を測定し、糖新生という過程を使ってブドウ糖を作ります。これは腎臓でもできます。さらに、ブドウ糖は、細胞老廃物である乳酸からも生産できます。


ケトン食の実施と遵守

 現在、ケトン食の実施は混乱しています。相談してくる人たちは、全員が他の治療法も調べています。政府や保健所からの公式のアドバイスはないので、患者はバラバラで矛盾する情報源を頼りに治療計画を作っています。これとは対照的に、標準治療をうける人は、教育、サービスの調整、ケアの提供、及び治療結果について、病院やクリニックから情報を得られます。さらに費用は、健康保険などででカバーされ、心理的·財政的負担は軽減されます。標準治療のケアを提供するクリニックも、ケトン食を治療計画に組み込み、多くの患者がこの治療も選択できるようにしてほしいものです。

 患者を支援するために、私は息子との経験から次のような注意点をまとめました。

·注意深く徹底的に実行しようと思っていても、ケトン食はなかなか一〇〇パーセントは遵守できない

·計算ミス、計測器の誤作動、及び他の人の間違いなど、実際上の問題を解決する手段が必要である

·病気、けが、基礎疾患、あるいは処方薬など、食事以外の不可抗力で血糖値が上がることがある

·他の人たちとつながるサポート·ネットワークは役立つ

 まずゴールと目的を定め、ストレスや食事制限に臨む姿勢が血糖値に影響を与えることなど十分に話し合います。クライアント自ら事態に対処できる戦略を練ります。

 一般的にまず、一日以上の完全ファスティングから始めます。これは誰でもできるわけではありません。できない場合は、数週間かけて実現します。ケトン食について、細部までよく理解した上で、食事制限を熱心に実施してください。

 初期には質問がたくさん出てきます。私の方から定期的に声をかけるようにしています。気分はどうか、体重は、キッチン·スケールで食物を測っているか、メニュー計画ツールを利用しているか、血糖値やケトン値はどれくらいになったか、など質問しています。これは食事計画の修正上必要こともありますが、熱心さを測る上でも欠かせません。

 始めのうち、患者は脂肪と油の量に抵抗があります。空腹や急激な体重減少を訴えてくる場合には、それを疑ってみます。メディアで脂肪が心臓病とがんの元であるとしつこく宣伝されているので、脂肪に対するこのような偏見は驚くに当たりません。患者には、炭水化物中心の食生活ががんの引き金になっていると伝えるようにしています。

 数字は重要です。朝昼晩に必ず血糖値とケトン値を記録してもらいます。ファスティングの経験がある人や、エネルギー代謝に柔軟性がある小さい子供の方がケトーシス状態に早く到達できます。なかなか目標に到達しない場合、食品の選択、運動の習慣、ストレス·レベル、及び薬の変更を確認します。度々変更が必要なパターンも見えてきます。

 ケトン食を長く継続するには、がんとのボクシングとでも呼ぶような戦略が必要となります。例えば、もっとカロリー制限の強いものを交互に実施するような形です。短いファスティングを挟むと、がんにストレスをかけられ、ケトーシス状態を強化できます。

 患者は全員、定期的に評価セッションを実施してもらいます。MRIなどの検査、化学療法も併用する患者は血液検査を受けてもらい、体全体への悪影響がないか確認します。

 慢性的なストレスは血糖値を上げます。コルチゾルが出て過剰な糖が生産されるからです。ストレスで交感神経が興奮状態を続けることになります。その結果筋肉の必要を満たすために、脂肪とブドウ糖が放出されます。患者はストレスフリーということはないので、治療効果を評価する時にはストレス·レベルを考慮する必要があります。

 介護者がケトン食に理解があるととても順調に進められます。きちんと治療計画を守ってくれるからです。しかし、患者本人がケトン食をやらないと決断する場合もあります。健康状態がよくないからという場合もあるし、進行を遅らせても生活の質や量を増進できない場合もあります。単純すぎる治療法に対して懐疑的な人もいれば、生活習慣の変更を望まない人もいます。そうした患者にケトン食を強制しても決してうまくいきません。彼らは、「試したがうまくいかなかった」と言っておしまいです。ケトン食を検討している他の人たちにとって、このような後ろ向きの経験談は参考になりません。

 

治療の効果

 患者は、ケトーシス状態になると何らかの不快感を訴えます。頭痛、疲労、気分の変化などです。子供は早くケトーシスに移行しますが、無気力、吐き気、嘔吐などを経験する人もいます。これらは一時的であり、適切な処置をとることで対処できます。ケトン食は、短期的には脂肪レベルを高める一方、長期的には胆石や骨粗鬆症のリスクを高めます。これらのリスクは食事内容を調節することで下げることができます。

 子供に関して、ケトン食の副作用が一つあります。長期間続けると身長の伸びが鈍化することがあるのです(てんかん治療のデータ)。もっとも、標準治療も身長の伸びに影響し、もっと深刻な副作用もあります。

 ケトン食を実施してもがんの進行を遅くできるとは限りません。古典的ケトン食を逸脱しタンパク質を多く食べたが結果はよかった人もいます。

 補助的治療法としてのケトン食の利点は、ケトンが神経を保護するので、標準治療での損傷を和らげることができるかもしれない点です。ケトン食を併用すれば、がんのエネルギー代謝を抑制することで、少なめの投与·投薬でスタートできます。治療は数週間あるいは数か月延命できた段階で成功と見なせます。


課題

 従来型のがん専門家の賛同を得るのは難しいものです。ケトン食が良好な治験成績を出せるかどうかにかかっています。比較対照試験ができれば理想的ですが、ケトン食で実施するのは至難の業です。乏しい資金でケトン食かどうか見分けのつかないように包装した食品を使うと、脱落者が多くなります。治療結果に影響する新たな条件も考慮しなければならなくなります。がん専門家の賛同を得られるようにする優れたツールが必要です。彼らは、必要な検査をする権限があり、健康をモニターするスキルを持っています。一人目の専門家が協力してくれない場合、別の専門家を探すようにアドバイスしています。

 ケトン食に対する家族のサポートは不可欠です。家族は命綱になるか足を引っ張るかのどちらかになります。患者が子供の場合、兄弟や友達の食生活や学校の干渉が障害になります。サポートグループに参加して他の人たちの経験から学んでもらうようにしています。

 米国では、がん治療にケトン食を単独で使う人はほとんどいません。従ってケトン食そのものの治療効果はなかなか測定できません。標準治療でケトン食を補助的に用いる場合も同じことが言えます。がん専門医は、ケトン食を併用したことには触れずに、標準治療が良好な治療効果を示したとコメントしがちです。

 まとめとして、私は、ケトン食が補助的治療法として受け入れられるようになると確信しています。良い治療効果を示す研究がもっと増えてほしいものです。併用することで低毒性の治療薬を使えるようになるかもしれません。ケトン食の賛同者は、情報共有でき協力関係を強められるようなケトン食グループを作っていくべきでしょう。


モンタナ州ハミルトン

ミリアム·カラミアン(食事療法学)



ケースその三 がんはエネルギー代謝の病である ボマー·ヘリン博士のコメント


 二年前バーベルのトレーニング中、右腕が折れました。自覚していなかったがんが原因でした。その結果、生活が変わり、骨折の外科治療、骨折個所その他のがんへの放射線治療を始めました。医学書には、多発性骨髄腫は治療不能と書かれていました。

 がん細胞と正常細胞との明らかな違いは、悪性腫瘍部位が光るPETスキャン画像でした。がんは同位元素で印をつけたブドウ糖分子を大量に取り込んでいました。これを見てインターネットで解決法を探し始めました。ウェブサイトには、パステル調の明るい背景を使い、「奇跡の治療法」があると喧伝するものが多数ありましたが、私はむしろ小さな文字と白黒の記事で本物のデータを分析しているサイトに何度も注目しました。そのようなサイトには良い科学がありました。オットー·ワーブルクの初期の観察結果やトマス·シーフリード博士の論文も読みました。がん細胞はエネルギー代謝に問題があるという意味がわかりました。

 シーフリード博士とのメールのやり取りのあと、ケトン食と阻害薬を組み合わせて治療することにしました。進行がん患者用の臨床試験の薬2-DG·PBの用量が書いてあるサイトもありましたが、ケトン食と組み合わせたものではありませんでした。

 厳格なアトキンズ·ダイエットと運動により、血糖値は48-70 mg/dlの幅に入り、尿中ケトン値も高まりました。ブドウ糖などの阻害薬も服用しました。しかしこの三つ巴治療法にも関わらず、低血糖と高ケトン値は維持できませんでした。普通食を食べないと友人や家族から孤立するし、体は血糖値を高めたいようでした。しかし、がんにブドウ糖を与えないようにする食事·治療薬を組み合わせれば、再発を予防し生存率を高められると確信しています。ブドウ糖代謝を阻害する糖尿病治療薬を使う患者は、がんになりにくいことも知りました。シーフリード博士の主張が正しいことがわかります。

 腕の骨折から満二年が経過しました。私のがんは完治していませんが、進行はありません。最新の検査では一年前より結果は良好でした。


ボマー·ヘリン博士(医師、がん患者)



ケースその四 脳腫瘍に制限ケトン食を使う: 神経がん学者クレイグ·ムーア博士のコメント

 私は三人の患者をシーフリード博士のアドバイスに基づいて制限ケトン食で治療しました。三人とも脳腫瘍(多形神経膠芽種)と診断されていました。三人とも標準治療である外科手術のあと、放射線治療と化学療法を受けました。三人とも標準治療終了後に制限ケトン食を始めました。患者一人は離脱しましたが、後の二人はいまだに制限ケトン食を続けています。

 患者一は、四〇歳男性で、二〇〇八年に言葉が出なくなり、混乱と視力不良になりました。画像診断で左頭頂部にがんが見つかりました。二〇〇九年始めに、インプラントによる化学療法を行いました。診断は多形神経膠芽種でした。手術後に放射線と化学療法実施しました。その後数か月元気だったのですが、二〇一〇年七月に新たながんが見つかり、さらに化学療法を開始しました。制限ケトン食は二〇一〇年七月から一一月まで実施し、問題はありませんでした。疲労や知能に影響はありませんでした。適度な運動と仕事も続けられました。しかし、大幅なカロリー制限にも関わらず血糖値は目標より高いままの50-91 mg/dlでした。

 朝の血糖値は目標の55 mg/dl程度だったのですが、昼と夜はレンジを超えていました。ケトン値は4 mMの高さを維持できていました。患者は、少量の高脂質で低炭水化物の食事になかなか慣れないし、ローカーボの食品がなかなか見つからないと言っていました。歯磨き粉、マウスウォッシュや石鹸をローカーボのものに交換するとストレスを感じるようでした。それでも小幅ながら血糖値を下げられるようになっていました。

 患者は制限ケトン食を四か月続けました。二〇一〇年九月、MRI検査で新しい病変が見つかりました。これが新しいがんが進行したのか壊死なのかは判別できませんでした。このような患者は精密検査もやるべきでしょう。標準治療を選ぶ患者は、壊死や新たながんになりやすいものです。化学療法は二〇一〇年九月に中止し、別のクリニックに移りましたが、制限ケトン食は一一月に新治療法が始まるまで続けていました。治療前に、そのクリニックでCT検査とPET検査を受けた時の公式所見は以下の通りです。「検査ではエネルギー代謝面で活発ながんの存在を示すような異常な代謝活動は全く確認できなかった。しかし、左頭頂部には活動の減退があり、脳のMRIに見られる異常と一致する」

 この検査結果は、明らかにがん壊死であってがんの再発や進行ではありません。しかし新たな化学療法が開始されたため血糖値は下げられず、制限ケトン食は中止されました。新強い標準治療を開始してからわずか六週間後に、がんが進行したことがわかりました。この患者とは連絡がつかなくなったので、その後の経過は不明です。

 患者二と三は、現在も制限ケトン食を実施していて、副作用もなく元気にしています。二人とも制限ケトン食は少なくとも二か月続けています。患者三は今までの制限ケトン食体験を詳細な日記に書き留めています。患者一と二と同じく、患者三も低炭水化物の食事をなかなか探せないと言いつつ、ケトン値は4.4 mMに保てています。むしろ、3.1 mM以下に下がった時てんかん発作が増えました。4.0 mM以上に戻ると、発作回数は通常状態に戻りました。患者二も三も制限ケトン食を始めた後、画像診断は受けていません。

 三名の患者に共通するのは以下の諸点です。 

一 カロリー制限の食事は食品が見つからない。

二 血糖値55-65 mg/dlを維持するのは難しい。個人差がある。患者の一人は体重五二kgの高齢女性です。あと二人は男性で身長180cm以上、体重八二~九〇kgあります。現在は基礎代謝率を使って、制限ケトン食の必要カロリーを設定しています。基礎代謝率マイナス二五~三五%を制限ケトン食開始時の数値としています。脂肪四に対して炭水化物·タンパク質一の比率です。この比率は完璧ではなく改善の余地がありますが、現在までのところ、個人差も勘案できるので最良と考えています。カロリーを計算し四対一の脂肪比率で始め、患者本人が毎日二、三度血糖値を測定し、食事を調節しています。

三 ケトン値4 mM以上を維持することが決定的に大切です。三人とも問題はありませんでした。患者三は特に4.0 mMを超えるケトン値でてんかん発作のコントロールも良好でした。誰も病理的なケトアシドーシスにはなりませんでした。

四 制限ケトン食を採用してくれるがん専門医を探すのが難しい。

五 運動はするべきです。血糖値を下げるという目標に合っています。高脂肪食を摂取しているので、運動で中性脂肪とコレステロールをコントロールできます。他方、筋肉運動で生じた乳酸は肝臓で新たにブドウ糖に転換されるので、患者一は毎晩運動した結果夜と朝の血糖値が少し高くなってしまいました。運動を朝にするように指導したところ、夜の値が下り、朝の血糖値も制限ケトン食だけの時より良好な値になりました。この患者の場合、血糖値は運動により一から三ポイント変化しました。

 制限ケトン食に副作用はあまりないことがわかっています。ケトン値40 mMは問題なく達成できます。三人とも食事のメニュー作りに困難を感じていますが、最大の障害は、血糖値をレンジ内に入れることです。三人とも命に関わる病状なので、制限ケトン食はさらに改善の余地があります。

 制限ケトン食は、標準治療と併用する治療法として、脳腫瘍に効果があります。患者一の制限ケトン食後の画像診断で、活発ながんが全くなくなったことに非常に勇気づけられています。進行した神経膠腫患者が、制限ケトン食で治療が成功したことを示しているからです。

 制限ケトン食は進行の遅い脳腫瘍でさらに効果が高まります。がんのエネルギー代謝を標的にするので、悪性化を防ぐかもしれません。初期がんは次第に進行していきます。初期の脳腫瘍全ての患者に制限ケトン食を強く勧めます。制限ケトン食が全ての神経膠腫患者の標準治療に組み込まれるべきです。

 終わりに、重要な点として、制限ケトン食は医療者の指示なしでは実施するべきではありません。患者がコントロールする食事療法ですが、副作用もあります。一人で実施する誘惑を抑えて専門家の指示を受けてください。血糖値とケトン値はしっかりモニターする必要があります。電解質などの検査結果も確認が必要です。制限ケトン食による脳腫瘍治療で成功するには専門家の指示を仰いだ方がいいです。制限ケトン食は次第に標準治療の一環になっていくでしょう。


クレイグ·ムーア博士

脳腫瘍学者



ケースその五 脳腫瘍とケトン食: ベス・ズペック・カニアのコメント

 私の経験はチャーリー財団でのてんかんの子供のケトン食治療に関するものです。ケトン食によって大半の子供たちの発作が改善するのは実に驚くべきことです。てんかんと自閉症の多くの子供を見てきましたが、動作と睡眠の質の改善は顕著です。ケトン食による調節の仕組みは、注目と尊敬に値します。この食事療法は脳腫瘍を含む多くの脳障害に効果的です。

 私は今まで、脳腫瘍と診断され、標準治療が失敗し、ケトン食療法に関心を持った一〇名の患者たちから相談を受けました。ケトン食療法を受けたいという意欲は実に強いものがあります。以下の説明は科学的な記録ではありませんが、食事療法の結果をご紹介します。

 会ったことがなく病歴も知らない人に対してケトン食を実施するにあたっては、悪影響が発生しないような手続きを考えました。「実験的な食事療法」の結果についての私の責任を問わないとする書面に署名してもらった上で、治療の責任を負うがん学者とケトン食について話し合うことにも同意してもらいました。次に、食事、体重、身長、体重減少歴、薬及びサプリメントの服用歴も申告してもらいました。それに基づいて調整したケトン食案を提示します。シンプルな二ページのガイドで、推奨すべき食品の量と種類が書いてあります。素材中心で加工食品は除外してありますが、炭水化物を一日約五〇グラムに制限します(通常の食事は一日三〇〇グラム)。健康的な脂肪とタンパク質の料理一品は食事ごとにお勧めしています。二週間後さらに制限の強い食事を望む患者には、計算したケトン食メニューを作成しました。

 ケトン食ははかりで計って、タンパク質の必要度により、脂質対その他の比率を二対一、三対一、あるいは四対一に設定します。カロリーは三食均等に配分します。最初はケトン食一回に普通食二回から始めます。二週目は、ケトン食二回と普通食一回、三週目は三食ともケトン食とします。対象だった一〇人中、四人がきちんと計算したケトン食に移行できました。血糖値は毎日二回測定し、それに合わせて食事を調節し、血糖値が55-65 mg/dlになるようにしました。中鎖脂肪は血糖値とケトーシスを安定させ、便通のよくするために加えました。

 ケトン食治療中は、良質の低炭水化物サプリメントを推奨します。ビタミンD 2000IU、カルシウムと微量元素は推奨レベル、加えてリンのサプリメントも摂取します。ケトン食で不足する要素が多いので、ケトン食の段階別に調整します。低炭水化物食は利尿作用があるので、カフェインと利尿薬は避けます。炭水化物のない液体も推奨します。食物繊維も、ケトン食で多く発生する便秘の予防のために推奨しています。体調の悪い日は低炭水化物の電解質補給飲料を提供します。

 オンラインのケトン計算プログラムに基づき、患者は次第に自分で食事を作れるようになります。私も彼らの調理を確認し、必要があれば献立の編集もします。参加者とのやり取りは当初は一時間の電話でしたが、今はメールで行っています。進捗状況をまめに報告してくれる熱心な人が、計算された食事療法に移行しやすいようです。計算に基づく食事療法に移行した四人のうち三人は、質問と進捗報告を頻繁に送ってくれました。三人ともMRI画像で確認すると、「安定したがん」または「がんの萎縮段階」に到達していました。二人は数年食事療法を続けていて、当初「余命数か月」と言われたのに今も生きています。一人は亡くなりましたが、その彼も、ケトン食を開始する前にすでに転移したがんがあったにも関わらず、当初の見通しより一年長生きしました。彼の妻が食事を管理し、死ぬ二か月前まで「活動的でよく気のつく人」として人生を楽しむことができました。

 ケトン食はこのような人たちを助ける食事療法ですが、標準治療の初期から採用していたら効果が上がったに違いありません。がんはエネルギー代謝の病気なのに、なぜ、脳腫瘍のエネルギー代謝を活用した強力な予防·治療方法としてこの食事療法を推進しないのでしょうか。化学療法は食欲を減退させるので、強い意欲があっても食事療法を遵守できません。


ベス・ズペック・カニア(RD, CD)

チャーリー財団コンサルタント(www.charliefoundation.org)



サマリー

 介護者、医師、患者の経験から断定できるのは、ケトン食ががんの代替的あるいは補完的治療法として有望だということである。一つ課題なのは、血糖値を治療的レベルに維持することが難しいという問題である。ケトン食はケトン体レベルを上げることはできるが、血糖値を下げるには効果的ではない。ベス·ズペック·カニア氏が述べているように、治療薬が低血糖値になるのを邪魔しているかもしれない。ステロイドを服用していると、血糖値は下げられない。他方、実験に参加した健康な大学院生たちは、ケトン食で血糖値とケトン値を十分管理できた。

 ケトン食は、単独、または無害な治療薬と組み合わせて使うと最大の威力を発揮する。小さながんのある患者がケトン食の可能性をほとんど知らず、知らされもしないのは悲劇である。早くこの残念な状況が変わってほしい。


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