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19 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』

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    yd
  • 2024年7月2日
  • 読了時間: 12分

Thomas N. Seyfried

Cancer as a Metabolic Disease

On the Origin, Management, and Prevention of Cancer

John Wiley & Sons Inc.

2012

日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日



第一九章 がん予防

 細胞レベルの呼吸損傷によりがんになる。がんはエネルギー代謝の病である。細胞の呼吸傷害ががんの原因だから、ミトコンドリアを損傷から守ることががん予防の第一歩となる。がん予防は、喫煙、過度の飲酒、発がん性化学物質、イオン化放射線及び肥満など、体組織の炎症を抑制することが肝要である。

 炎症のサインが上がると、がんのリスクは高まる。慢性的な炎症は、組織と細胞を損傷する。炎症が細胞のミトコンドリアを傷つけ、細胞呼吸を低下させ、ミトコンドリアが悲鳴をあげる。この合図で、ブドウ糖とアミノ酸の発酵が高まる。発酵できる細胞だけが生き残り、できない細胞はエネルギー不足で死ぬ。生き残る細胞は機能分化が低下し、変身するリスクが高まる。長く発酵し続けると細胞核ゲノムは不安定になり、さらにがんができやすくなる。炎症は細胞呼吸を損傷し、がんを生む。

 炎症と損傷を予防すれば、がんの発生を減らせる。発がんウイルスのワクチンも有効である。ウイルスはミトコンドリアを損傷するからである。リスク·ファクターを避ければ八〇パーセントのがんは防げる。理論上、がんほど予防しやすい慢性病はない。

 それほど予防しやすいはずなのに、なぜ毎年新規発症者数が増え続けるのか。先進工業国で患者数が増える理由はいくつかある。一つは、予防はあまり重視されてこなかった。政府機関もメディアも、治癒の可能性、治療法、及び新しい原因に焦点を当ててきた。がんのスクリーニングは一部のがんを防いだかもしれないが、年間死者数には影響しなかった。その二は、予防より治療法の開発に多くの研究費が振り向けられてきた。全米がん研究所(AICR)は予防に特化した数少ない財団である。予防戦略はもっと重視する必要がある。そして最後に、がんのリスクファクターは、喫煙、食事、アルコール飲料と性交渉のように、人生を楽しむものと関連している。こうした活動をする時、誰もがんのことは考えない。禁煙と安全な性交渉のキャンペーンはがんのリスクを下げたが、飽食と過度な飲酒対策は成功していない。

 炎症は細胞の呼吸を損傷する。がんは長引く呼吸損傷から発生する。では、肥満はどうしてがんリスクなのか。肥満は身体全体の炎症を強めることがわかっている。慢性的な炎症はがんを発生させる。がんのリスク·ファクターがどのようにして細胞の呼吸に影響するか広く理解されるまで、がんは増え続けるだろう。減量すれば肥満はがんのリスクではなくなり、何百万ドルも連邦政府の税収をがんや肥満問題に投じる必要はなくなる。


携帯電話とがん 

 携帯電話と脳腫瘍の論争は、一九九三年、携帯電話会社を相手取った裁判から始まった。最近のWHOもそのリスクを指摘している。今や携帯電話は、クロロホルム、ホルムアルデヒドや鉛と同じ発がん物質に分類されている。あらゆるがんと同じく携帯電話と脳腫瘍の関係は、遺伝子と環境要因で決まる。

 WHOのレポートは、いたずらにがんに対する恐怖心を煽っていると言われる。主な批判は、細胞変異と電波の関係が十分に解明されていないとするものだ。多くの人が遺伝子変異でがんになると考えているので、この批判は理由のないことではない。しかし、がんになるのは変異のせいではなく呼吸の損傷のせいである。さらに核心に迫る質問は、長時間の携帯電話使用がどのように細胞の呼吸を損傷するか、という質問である。

 携帯電話を使い過ぎればがんになることは明らかである。携帯は超低周波電磁波を発生する。電子レンジやテレビと同じ周波数である。継続的に晒されれば発熱する。温度上昇幅は少ないかもしれないが、頻繁で持続的な温度変化は、中枢神経エネルギー代謝に影響する。発熱すると、炎症性サイトカインが発生し、マクロファージを活性化する。炎症が起き、体組織が傷つくことになる。

 炎症は細胞の呼吸を損傷する。発がん性への道は細胞呼吸の損傷から始まる。究極的には細胞の不十分な呼吸により、結果的に遺伝子変異が生じる。携帯電話のがんリスクは、DNA損傷からではなく、細胞の呼吸不全とエネルギー代謝の混乱から発生する。


アルツハイマー病とがんリスク

 アルツハイマー病患者のがんリスクは顕著に低い。アルツハイマーはエネルギー代謝が低下する障害である。患者は、食欲がなくなるので、カロリー制限環境になる。その環境では、自然とがんは阻害される。但しアルツハイマーの場合ケトン体の上昇はない。アルツハイマーの治療法としては、ケトン体の上昇が重要である。アルツハイマー病ではどうして代謝低下が生じるかも研究が必要である。


ケトン代謝ががんリスクを下げる

 ケトン体は、ミトコンドリアを炎症と活性酸素から守る。活性酸素は加齢と共に増え、細胞タンパク質、脂質及び核酸を損傷する。活性酸素が溜まればミトコンドリアのエネルギー代謝効率は低下し、発酵しなければならなくなる。がんリスクは加齢と活性酸素の蓄積で高まる。逆にケトン体はミトコンドリア機能を強め、発酵を抑える。ケトン体の活用と血糖値の低下を組み合わせれば、ゲノム不安定を防ぎがんリスクを下げる。

 ミトコンドリアの活性酸素は、酸素とコエンザイムQの化合から発生する。ケトン体は活性酸素を減らし、ミトコンドリアエネルギー効率を高め、がんリスクを減らす。

 ケトンの利用は、抗酸化物質グルタチオンも増やす。活性酸素が減れば炎症も減る。ケトン体は、抗炎症性がある。ケトン代謝はミトコンドリアの健康と効率を維持することで、がんの発生も減らす。なんと単純なことか。


ミトコンドリア強化療法

 ケトン体をエネルギーとして活用する一番簡単な方法は、十分な栄養素を確保しながらの食事制限である。栄養不良だとがんが発生しやすくなる。この食事制限では、リボフラビンなど呼吸に必要な酵素を含む食品は摂取しなければならない。ビタミンDもミトコンドリア効率を高める。ミトコンドリアの呼吸効率を高める食品はなんでもがんリスクを下げる。

 食事制限で血糖値を下げると、正常細胞のケトン体の吸収と活用が容易になるが、がん細胞はケトン体を活用できないので衰えていく。


治療的ファスティングとがん予防

 動物実験で食事制限は、あらゆるがんを減らすことが確認されている。いくつかの人間のがんも減らす。しかし、ネズミの四〇%食事制限は、人間では水だけファスティングか超低カロリー食(500-600 kcal/day)に相当する。これは人間の基礎代謝率の方が七倍高いからである。定期的な食事制限は、複数のがん誘因を狙い撃ちにできるので、がん予防につながる最もシンプルで低コストの生活様式と言える。

 人類は、長期間食物がなくても機能できるよう進化してきた。健康な大人なら三〇~四〇日の水だけファスティングの後でも正常に機能できる。多くの人にこの長期間絶食は不可能に見えるだろうが、実証されている。特に、過体重の人は副作用なしに数か月絶食できる。エネルギー枯渇状態ではケトン体が脳の主要な燃料になる。”ダンジキ”は治療的ファスティングの日本語で、がん予防をはじめ多くの健康利益がある。人間は害なく長い絶食ができる。

 治療的ファスティングは飢餓と同じではない。飢餓は病的な状態で、身体がエネルギー不均衡に苦しみ、生活維持に必要なミネラルやビタミンが欠乏している。ファスティングは治療であり生体の健康は維持されている。ビタミンA, D, E, Kは肝臓と体脂肪に貯蔵され、ファスティング期間中徐々に放出される。ミネラルは骨に貯蔵され同じように放出される。水溶性のビタミンCとB複合ビタミンだけ、ファスティング開始後一〇~一四日に補給が必要になる。定期的なファスティングは身体の健康に極めて良い。体重減少が起きるが、それは自然なことであり、化学療法のものとは際立って対照的なものである。


ファスティング中の血糖値とケトン値

 何人かの大学院生に最長六日間の自主的ファスティングをしてもらい、血中のブドウ糖とケトン体の濃度を記録した。学生は健康な成人男女で、二一~二八歳だった。期間中、カフェインを除去した緑茶か水だけを飲んだ。全員が三日以内に血糖値とケトン値を治療レンジに調整できた。妨害する薬を服用していない限り、がん患者も似た経験ができる。

 最初の二日間、大半の学生がブドウ糖禁断症状を経験したが、一過性でやがて収まった。禁断症状(不安、頭痛、吐き気など)は、多くの人がアルコール、タバコや薬物など常習性のある物質でも体験するものだった。一部の学生は、五日後エネルギーが溢れるように感じた。全員、ファスティングの治療効果があり、害がなかった。

 ある男子院生は三日目に血糖値を39 mg/dlまで下げた。歩き回るのはどうかと質問したところ、「元気で何も問題ない」との答えだった。彼のケトン値は1.1 mmolで、低い血糖値を補い副作用を防いだ。低血糖はケトン値が上がらない人だけにとって問題となる。ブドウ糖からケトンへ緩やかに移行すると、体組織は低血糖から守られる。

 もう一人の男子学生は、六日間のファスティングとケトン値上昇(2-3 mmol)にも関わらず、血糖値を十分には下げられなかった。血糖値は最低で68 mg/dlまでしか下がらなかった。あとで彼は、水だけ飲む代わりに、カフェイン入りのコーヒーを飲んでいたと白状した。カフェインは血糖値を下げるのを妨害する。制限ケトン食を実践する人はカフェインは避けるべきである。ファスティングする人は血糖値を下げるために何をすれば良いか学ぶ必要がある。

 あるブロガーはポッドキャストで七日間のほとんど水だけファスティングについて語っている。彼はローカーボ·ダイエットの健康価値を主張する有名なブロガーである。生理的な変化を一般人の言葉で説明した。彼はチキン・ビーフ・ブイヨンは摂取した。ブイヨンはカロリーと塩があり、血糖値を下げきれない可能性があるが、首尾よくレンジ内まで下がった。がん患者は、ファスティングが健康に害がないことを学んでほしい。


オートファジーと自己カニバリズム: がん予防へのエネルギー面の理解

 オートファジーとは、非効率的な小器官からエネルギーが豊富な分子を分解しリサイクルする過程のことである。損傷した小器官はエンドソームやリソソームと融合する。自己カニバリズムは、身体が非効率になった細胞·組織を丸ごと消化することだが、同義語として使われることが多い。両方の過程は食事制限の実施中に起きる。食事制限は全細胞と器官にエネルギー面のストレスをかける。エネルギー代謝に問題のあるがん細胞に含まれる栄養素は、血液循環を通じて正常細胞へ再配分される。細胞が弱いかどうかは、エネルギーを制限したエネルギー・ストレス状態で判別できる。

 エネルギー・ストレス状態において、正常細胞は前がん段階にある細胞をエネルギー源として活用する。ファスティングや食事制限では体温は低めになる。体温維持のため体は貯蔵されている脂肪か前がん細胞を活用する。

 がん細胞は非効率な呼吸機能を持ち、発酵依存の初期段階にある。ケトン体からエネルギーを生産するのは、食物が枯渇した時の正常細胞の適応方法である。ケトン食はタンパク質を温存し脳を保護できる。何百万年もの間に培われた柔軟なゲノムを持つ細胞だけがこのエネルギー·シフトに適応できる。がん細胞はこれに適応できない。

 私は、食事制限によるがん予防を提案したい。正常細胞の柔軟性を利用して、エネルギー代謝に問題のあるがん細胞を犠牲する方法である。がん細胞はエネルギー·ストレスに弱いので、正常細胞がオートファジーによりがん細胞を食べてエネルギーを確保する。言い換えれば強者(正常細胞)が全体の善のために弱者(がん細胞)を食べる。しかしこれが起きるのはエネルギー·ストレス状態下だけである。エネルギーが溢れていればがん細胞は持ち堪えて繁茂するからである。なお、食事制限によるがん予防は、カロリー制限による健康維持の考え、及び長寿を促すビタ遺伝子の考えと共通するところがある。


制限ケトン食によるがん予防

 制限ケトン食を用いて子宮頸がんを治療したケースを紹介したい。この病は子宮頸部の表皮細胞の異常で、軽度から重度まである。ひどい場合前がん状態と見なされる。この人の場合、スミア·テスト(子宮頸部細胞診)、内視鏡、生検でいずれも高度の扁平上皮内腫瘍の病変が認められた。次の生検までの間、制限ケトン食を四週間実施した。自宅で一人では実施困難なので、男性の友人が一緒に治療に参加した。

 興味深いことに、制限ケトン食開始後の二回目の生検は異形成がいくつかだけ見つかったが、一つも重度ではなくなっていた。二回目の生検までの間に制限ケトン食以外の処置はなかった。担当医は診断の劇的な変化にむっとしていた。これは単なる一エピソードにすぎず、制限ケトン食の効果であると決めつける根拠はないが、その可能性は十分ある。

 制限ケトン食が子宮頸がんだけでなくその他のがん予防に効果があるだろうか。制限ケトン食療法は他のがん治療や検査と併用できる。例えば乳がんや肺がんの生検や大腸カメラと組み合わせられる。前がん状態を治療するためになぜ手術や有毒な物質を使う必要があるのか。がん予防に関心のある人たちは知っておいてほしい。


がん予防のためにどれくらい続けるか 

 がん予防のためのファスティングや制限ケトン食の継続期間は、一人ひとり異なる。一般的に一年に一度水だけのファスティングを七日間連続して行えば、体が前がん段階の組織を消費するのに十分である。血中ブドウ糖濃度を治療レベルの五五~六五mg/dlに下げ、ケトン体を三~五mmolに上げるのにたいてい二、三日かかる。ひとたび体がこのエネルギー状態(ケトーシス状態)に到達したら、オートファジーががん細胞を追い出しにかかる。

 二、三日のファスティングを年二回か三回実施するだけでも、がんの予防に効果がある。ケトン食を一週間続けるのも、効果的ながん予防法となる。がん予防の食事療法にはいくつも応用形がある。理論的に単純に見えても、いざとなると困難な場合が多い。一般人は、実践する意欲や動機付けが弱い場合がある。従って、食事療法専門のクリニックが頼りになる。

 この食事制限療法は、細胞のエネルギー代謝を維持しつつ、正常細胞の柔軟性を利用して、エネルギー代謝に問題のあるがん細胞を退治する。標準治療は、放射線や化学療法や胚性幹細胞など外部の要素に依存するのに対し、この新アプローチは、カロリー制限によるエネルギー転換でがん細胞を叩く。この方法はがん細胞にとってはるかに大きなストレスになる。がん組織の成長が遅くなり、人体全体のエネルギー代謝が改善する。現在のがん治療法より、有毒でなく効果的な治療法になる。この治療法は、自分の人生は自分で決めたい人たちを勇気づけるだろう。

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