14 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』
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- 2024年7月2日
- 読了時間: 7分
Thomas N. Seyfried
Cancer as a Metabolic Disease
On the Origin, Management, and Prevention of Cancer
John Wiley & Sons Inc.
2012
日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日
第一四章 ミトコンドリアの呼吸機能不全とがんの染色体以外の起源
理論の信頼性は、観察結果を説明できるかどうかで決まる。体細胞突然変異説には深刻な矛盾があり、がんの起源を説明できていない。遺伝子理論(体細胞突然変異説)に対する不信感は限界に到達し、イデオロギーとして受け入れられているにすぎない。
ワーブルクは、ミトコンドリア損傷がどのように転移をもたらすか、あるいはどうしてがん細胞が呼吸するように見えるか、十分に説明できなかった。これらの欠落のせいで、ワーブルクの理論はがんの起源に関する主流の説明になれなかった。しかし、呼吸の損傷か不十分さががんの起源であるとするワーブルクの中心的な仮説は、実験で否定されていない。がん細胞のミトコンドリアでのアミノ酸発酵と非酸化的呼吸を見て、有酸素呼吸が正常であると思ってしまうことはある。実際には呼吸は正常ではないのに、である。
私は、第一三章で、ミトコンドリアの機能不全が転移を説明できると述べた。また第七章と八章でアミノ酸発酵がオクス·フォス呼吸を真似できるか説明した。こうした証拠はがんが遺伝子の病気ではなくエネルギー代謝の病気であることを強く示す。細胞核ではなくミトコンドリアががん形成の起源を決めていることは、今や議論の余地がない。ワーブルク効果(有酸素解糖系)はどのがんにも見られる。ミトコンドリアの損傷による呼吸不全が、ワーブルク効果とこの病気に関連する全ての現象の根底にあることが明らかになってきている。がんがミトコンドリアの呼吸不全の病気であるとする証拠は膨大である。ミトコンドリアは細胞核の染色体以外の小器官なので、がんも細胞核以外から発生するエネルギー不足の病気である。
点をつなぐ
細胞の呼吸能力を損傷するが細胞を殺しはしない程度の不特定の状態が、悪性腫瘍の始まりである。どのミトコンドリアのタンパク質や脂質やDNAが損傷しても、呼吸能力は減少する。呼吸能力を損傷する条件は、例えば、炎症、発がん物質、放射線(電離または紫外線)、断続的な低酸素、稀な生殖系変異、ウイルス感染及び加齢がある。
炎症は長いことがんの開始と促進要因と認知されてきた。活性酸素を生産しTGFベータを高め、ミトコンドリアを損傷しつつ組織の形態形成分野を混乱させることである(第一〇章と第一二章)。発がん物質は変異の他に活性酸素も生産し(第九章)、オクス·フォス呼吸を混乱させミトコンドリアに永続的な障害を与える。遺伝子の変異効果よりミトコンドリア損傷の方が発がん性にとって深刻である。放射線は変異だけでなく、ミトコンドリアに傷害を与え(第七、九章)、壊死と炎症をもたらす。活性酸素の生産と放射線の傷害効果がオクス·フォス呼吸を損ない、がんを生じる。放射線は確かにがん細胞を殺すが、同時にミトコンドリアのエネルギー代謝に影響し、がんを生み出す。低酸素は炎症と同じくミクロ環境に高濃度の活性酸素を与え、ミトコンドリアの呼吸を損傷しがんの開始と進行を容易にする。当初の議論で私たちは年齢を促進要因に含めなかったが、リスク要因であることは間違いない。加齢に伴う活性酸素の蓄積はミトコンドリアを損傷する。私の仮説が正しいなら、がんのリスクは年齢とともに上がる。全てのリスク要因は、ミトコンドリア機能に対する長期間の有害な影響に基づく。
発がん性パラドックスを考える
悪性腫瘍は無数の様々な影響から生じる。アスベスト、高エネルギー放射線、刺激、化学物質、ウイルスなどである。発がん性でないものを見つける方がますます難しくなっている。特殊ながん化の現象がバラバラなきっかけで始まることから、発がん性のパラドックスと言われる。
このパラドックスは、発酵を活発にするような長期間の細胞呼吸の損傷で説明がつく。
ミトコンドリアの慢性的な傷害が呼吸を損ない、ミトコンドリアから細胞核に発酵を推進する信号が出て、解糖系の発酵とアミノ酸発酵が活発になる。発酵は一時的に呼吸不全を補えるが、細胞分化を損なう。混乱はアミノ酸発酵からも生じる。ブドウ糖を発酵しながら、アミノ酸発酵する。がん細胞は発酵で大半のエネルギーを作るところが正常細胞と異なる。
がんは発酵で生き延びる。ミトコンドリア内のクリスタ構造がひだ状からスムーズなものに変化するので、呼吸から発酵に移行したことがわかる。ミトコンドリアの損傷ががん開始·進行の根底にある。発酵が大半のエネルギーを産出するようになるとがんの進行も後戻りできなくなる。但し、ミトコンドリアの呼吸が残っている限り、がんの進行は逆転させられる。ミトコンドリア強化療法は損傷した呼吸を回復できる。呼吸を回復できず発酵エネルギーに依存することが、ワーブルク効果を含むがんの全ての特徴の根底にある。ブドウ糖を乳酸発酵するのに加えて、多くのがん細胞はミトコンドリアで グルタミンを発酵する。 がんの増殖を推進し、がん細胞がほとんどの従来の治療法に反応しなくなるのは、ブドウ糖とグルタミンの発酵のせいである。
がんの悪化に伴う遺伝子の変化は、呼吸不全と発酵の結果として生じる。発酵を推進するがん形成遺伝子が活発にならないと、細胞はエネルギー不足で死ぬ。呼吸損傷が、発酵によるエネルギー代謝を増加させるために必要な遺伝子の変更を進める。つまり呼吸不全ががん形成遺伝子を活発化させる。
DNAの修復は呼吸エネルギー代謝の効率に依存するので、呼吸が長らく不十分だとやがて細胞核ゲノムが損傷し、突然変異誘発遺伝子と体細胞変異細胞ができる。特に、細胞核ゲノムは正常な細胞呼吸で決まる。細胞呼吸が不具合になると、ゲノムが不安定になる。長引くミトコンドリア機能不全の結果、がん促進遺伝子が強まり、がん抑制遺伝子が弱まり、染色体の異数性が拡大する。こうした遺伝子の異常はミトコンドリア機能不全を累積させつつ、発酵エネルギーへの依存度を高める。発酵と基質レベルリン酸化に依存すればするほど、がんの悪性度が高まる。
細胞分化の維持に呼吸が必要なことから、呼吸喪失になると、分化は止まり増殖が強まる。サバイバルのために、生命体はできるだけ早く増殖する必要がある。そのためのエネルギーは発酵で賄う。
第二章で触れたがんの最初の三つの条件、つまり、
一 がんの無規制の成長は、成長を制御する遺伝子の異常から始まる
二 がん細胞の抑制遺伝子やミクロ環境が壊れることで異常な増殖が始まる
三 がん細胞は計画的な細胞死(アポトーシス)に向かわなくなる
は、初期の増殖モードの表れである。有酸素解糖系が増え、細胞死に至らないようにする。多数の発酵細胞が乳酸塩とコハク酸塩で酸性になり、血管新生が進む。がんのこれらの特徴は呼吸不全と発酵の結果である。
侵襲と転移以外の全てのがんの特徴は、良性腫瘍や非転移性がんにも見つかる。侵襲と転移の二つが続くので、がんが今でも見られるような死の病になっている。
マクロファージ細胞の融合ハイブリッドが転移の特徴を十分説明できる。転移がんの遺伝子の様子は、マクロファージや他の融合細胞と似ている。融合ハイブリッドの呼吸損傷から、がん細胞の侵襲性と転移性を説明できる。
最終節 がんは多数の病気か、エネルギー代謝の単一の病か
呼吸不全はあらゆるがんに共通の特徴である。がんが多くの病気のごった煮であるという現在主流の見方は、根本的に不正確である。がんは呼吸不全による単一の病気である。
ブドウ糖とグルタミンを発酵させる能力が妨害されると、全てのがんは成長を阻害される。全てのがん細胞は呼吸が不具合になっていることに、がんの専門家はいつになったら気づくのか。私の意見では、この事実が幅広く認知され受け入れられるようになるまで、がん管理には実質的な進展は起きないだろう。
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