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11 シーフリード『がんを餓死させる ケトン食の威力』

  • 執筆者の写真: yd
    yd
  • 2024年7月2日
  • 読了時間: 6分

Thomas N. Seyfried

Cancer as a Metabolic Disease

On the Origin, Management, and Prevention of Cancer

John Wiley & Sons Inc.

2012

日本語全訳の要約版 作成 旦 祐介 2024年6月30日



第一一章 ミトコンドリア: がん抑制者

がんをミトコンドリアが抑制する

 ワーブルク理論によれば、細胞の呼吸不全ががんの起源である。破損したミトコンドリアを正常なミトコンドリアと取り換えれば、がんが予防できるはずである。

 発酵によるエネルギー代謝(ワーブルク効果とアミノ酸発酵を含む)は、不十分な呼吸があっても持続する。呼吸のできる正常なミトコンドリアを持つ細胞質にがん細胞の細胞核を移植しても、悪性腫瘍にならないはずである。逆に、がんの細胞質に移植された正常な細胞核はがん化を止められないはずである。これが細胞核·細胞質移植の実験である。

 

正常なミトコンドリアを移植すると細胞はがん化しない

 細胞核を除去した正常細胞の細胞質を、がん細胞に移植しても、がんはできない。黒色腫細胞と正常なラットの細胞核のない細胞質とを融合させると、がん化は抑制された。つまり、正常なミトコンドリアを含む細胞質ががん細胞の悪化を抑えられた。正常な細胞質とがんのある細胞核を合体させた細胞で、がん化は一〇〇%抑制された。細胞核のないがん細胞の細胞質と、正常細胞からの細胞核との融合では、九七%の動物でがんができた。がん細胞の細胞質に移植された正常な細胞核は、がんの形成を抑制できなかった。つまり細胞の悪性腫瘍をコントロールしたのは、細胞核ではなく細胞質であった。

 実験の結果、人間の二倍体細胞(染色体が対になっている細胞)に関して、細胞核の染色体を除去しても、ネズミ二倍体細胞と同じくらい黒色腫細胞の悪性化を抑止できた。

 この実験をやったチーは、放射線を当ててから同じようにハイブリッドも作った。興味深いことに、がん発生率は、放射線を当てた人間の線維芽細胞の方が顕著に高かった。彼らは、染色体以外の要素で放射線に敏感な部分が悪性化を抑えていると結論づけた。


ミトコンドリアのDNAを除去した細胞

 ミトコンドリアのDNAが損傷して呼吸できない細胞に、野生タイプのミトコンドリアを移植する実験でも、呼吸が回復し、ゲノムは不安定にならなかった。またしても、がんを予防するのはミトコンドリアの呼吸であり、がんはワーブルクが予見したように、呼吸不全から生じることがわかる。

 がんの発生に呼吸が深く関わるとする研究として、病変したミトコンドリアを前立腺がん細胞に入れ、そのあと細胞をネズミに移植してがんの成長を観察したところ、七倍も大きながんができた。活性酸素も著しくたくさん発生した。ミトコンドリアで生成される活性酸素は、呼吸機能を破壊しゲノム不安定をもたらす。ミトコンドリアのDNA変異は前立腺がんを悪化させたことから、がんをミトコンドリアの病気と定義することが適切である。この結果はワーブルク理論の正しさを裏付けるものである。


正常なミトコンドリアががんを抑える

 がん細胞の細胞核は、正常な細胞質に移植されたら、正常な細胞を形成するようになることがわかっている。これは、カエルとネズミの新生成組織の研究で明らかになった。細胞核を取り除いた正常な卵細胞にがん細胞の細胞核を移植したところ、がん細胞の細胞核が正常な脊椎の発達を指揮することが確認できた。

 三倍体がん細胞の細胞核を細胞核のない正常な卵細胞に移植すると、培養基内でオタマジャクシが生まれ、刺激すると泳いだ。がん細胞から得られた細胞核は、正常な細胞質に移植された結果、正常な発達過程を歩めることを示している。

 こうした観察結果は、体細胞突然変異説では説明できないが、ワーブルク理論には合致する。羽化した卵から得られた正常なミトコンドリアががんの生成を抑制するのは、十分なオクス·フォス呼吸ができるからである。


正常な細胞質ががんを抑制する


ネズミのがんの細胞核だけを核を除去した正常な体細胞に移植すると、その細胞は問題なく発達する。正常な細胞質へのがん細胞核の移植ががん化を抑制しただけでなく、胚を形成し、組織分化し、初期の器官を形成した。驚いたことに、受け取った側のネズミでは悪性腫瘍は全く確認されず、正常にコントロールされた増殖が見られた。

 がんにならなかったのは、異常なミトコンドリアを正常なミトコンドリアに入れ替えたからである。つまり、正常なネズミががん細胞から生まれるし、細胞核ゲノムががん化しても細胞全体ががん化するわけではない。

 別の実験でも、がん細胞から正常な胚盤胞(着床前の胚)が形成されるし、黒色腫細胞核から正常な胚盤胞と胚細胞系列ができる。がん化を抑えるのは、呼吸能力のある正常なミトコンドリアである。がんの細胞核は、細胞質に正常なミトコンドリアが存在する限り、正常な発達を遂げる。つまり、細胞核の遺伝子変異ではがんの発生を説明できないが、ミトコンドリアが発がん性に深く関与していることがさらに明確になった。


肝臓のがん化

 細胞と細胞との融合はネズミの肝臓ではよく見られる。肝臓での正常細胞とがん細胞との融合では、がんができない。これは、融合した細胞ハイブリッドの中の正常ミトコンドリアが、がん化を抑制したせいである。

 正常なミトコンドリアががんを抑止する。細胞分化(肝臓細胞なら肝臓の機能を維持増進する)に呼吸は必要である一方、呼吸が不調になると、解糖系発酵が進み、細胞が無秩序的に分化し、抑制の効かない増殖が続く、つまりがん化する。これは、ミトコンドリアのエネルギー代謝の障害が発がん性をもたらすとするワーブルク理論と一致している。損傷したミトコンドリアを正常なミトコンドリアと入れ替えると、呼吸を通じた十分なエネルギーを生産するようになるので、分化した正常な状態を回復できる。えーと、どなたか聴いていますか。


細胞核と細胞質を入れ替える実験のまとめ

 一連の実験で、正常なミトコンドリアはがん化を抑制できることが確認できた。がんが不十分な呼吸の病であるとするワーブルク理論を裏付ける。正常なミトコンドリアはワーブルク効果を逆転させがん化を拒む。正常なミトコンドリアは呼吸不全とがん化を抑制するのに対して、異常なミトコンドリアは呼吸不全や発がん性を抑制できない。

 ワーブルク理論によれば、がん細胞に正常なミトコンドリアがあれば、細胞の酸化還元反応は回復し、ミトコンドリアのストレス反応を止め、発酵は不要になる。正常なミトコンドリア機能は細胞の分化した状態を維持し、それによって発がん性を抑制する。これに対して機能不全のミトコンドリアは脱分化を促進し、それによって発がん性が容易に進展する。ミトコンドリアの異常ががんの起源であるとする証拠は、幅広い実験で明らかになっている。

 まとめとして、発がん性の起源は、細胞組織内のミトコンドリアの異常であって、細胞核のゲノムの異常のせいではない。がんの専門家たちがこの事実に気づいていないのはどうしてだろうか。彼らがこうした実験結果を無視して、間違った遺伝子学説にこだわるのはなぜか。「がんの体細胞突然変異説(遺伝子の病とする説)がそれを信じ込む人たちにとって精神安定剤になっている」という批判は正しいかもしれない。過去四〇年のがんとの闘いで実質的な進展がなかったのは、体細胞突然変異説を盲信してきたせいであり、またミトコンドリアの機能不全がこの病の起源であるとするエビデンスを受け入れなかったせいである。この失敗は言い訳できない悲劇であり、結局何百万人ものがん患者を死なせている。

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