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紙パックという誤解

  • 執筆者の写真: yd
    yd
  • 2022年4月15日
  • 読了時間: 4分

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数日前、牛乳の紙パックを型に使ってケーキを焼くという間違ったレシピのサイトが批判で炎上し、関係者が謝罪する事態になりました。



検索すると、紙パックはオーブンなどで加熱調理に使ってはいけないとするブログや記事が他にもあります。この問題は、「紙」パックが実は紙だけではないから生じています。


紙パックという名称がそもそも誤解のもとです。牛乳パックの芯は確かにパルプですが、牛乳に触れる内面も印刷してある外面もポリエチレン(PE)というプラスチックです。PE-紙-PEという形で、紙がサンドイッチされたものなのです。ケーキを焼く温度になると、PEから溶け出た化学物質が、ケーキの材料を汚染します。このブログでは食品の汚染に絞って考えますが、PEが高温で溶けると有毒なガスも出ます。だから警告が出され、サイトの削除がなされました。


紙パックについて、特に食品に触れる内面がコーティングされていることは心配しています。ケーキを焼いた時に溶け出したPEで汚染されたケーキは食べたくありません。PEは常温では安定した樹脂とされて、これほど多様な形で重宝されてきました。しかし、通常の使い方で本当に何も溶出しないのでしょうか。心配な点は大別して3点あります。


1 PEそのものの安全性

2 封入する時や保管中の温度および保管期間

3 PE表面の加工


1 PEは、かなり安定したプラスチックであり、世界中で多用されています。厚生労働省も食品の容器に使用することを許可しています。しかしながら他のプラスチックとの比較試験の結果は見たことがありません。どなたかご存知でしょうか。安全と言っても、内分泌物撹乱物質(endocrine disruptors)のひとつであるノニルフェノール(nonylphenol)が溶出することは知られています。これはPEの種類を問わず指摘されています(HDPEもLDPEも含む)。特に日射で溶出度合いが高まるとされています。


2 缶詰はパックしたあとに高温殺菌します。それと比べて、ある牛乳メーカーのサイトには、高温殺菌したあと紙パックに封入すると記載されています。牛乳紙パックの場合は殺菌の後に封入するということはわかりました。封入した紙パックが高温に晒されることはなさそうです。しかしどれくらい低温にしてから封入するのかは記載されていないので、わかりません。あまりに高温で封入すると、PEの溶出が心配される一方、温度が下がった時に容器の変形(paneling)の心配があります。保管時の温度は、牛乳については低温ですので、あまり心配はないかもしれませんが、超高温殺菌で半年以上常温保存できる種類の牛乳は、たとえ溶出度合いがごく微量であっても長期間溶出し続ける環境になりえます。


3 PEは用途によってフッ素化処理できるプラスチックの1つです。フッ素化処理によって、PEの溶出や容器の変形を防ぐことができます。他方、食品の容器の場合、フッ素化によりPFASの生成と溶出が心配です。2021年米国環境保護庁(EPA)は殺虫剤のPE容器からPFASが溶出したことを重く見て注意通知を発出しています。フッ素化により生成したPFASによりPE容器が汚染されたのです。PE容器のフッ素化はごく普通に行われています。フッ素化することで簡単に容器の性能が高まるからです。ポリプロピレン(PP)容器もポリ塩化ビニル(PVC)容器も同じようにフッ素化は効果が出ます。PETボトルはフッ素化できないようです。牛乳の紙パックはフッ素化が不要なのか、素人にはわかりませんが、PE容器でフッ素化は効果があるのですから、紙パックのPEもフッ素化されている心配は十分にありうると踏んでいます。EPAは用途によってフッ素化を制限しています。


私は特に上記の3番目のPFAS汚染をもっとも心配しています。PEなどプラスチックによる食品汚染は、特にこの数年、今まで指摘されてこなかったPFAS汚染が明らかになったことで、憂慮する段階に入ったと考えています。その他の汚染物質と異なり、PFASは"ppt"(10億分のI)のオーダーで発がん性が指摘され、その他多種の疾患の原因物質になっているので、「ごく僅か溶出するが、健康に影響はない」などと軽々しく言えないところが問題です。ちなみに水道水を例にとって説明すると、PFAS以外の物質は"ppb"または"ppm"のレベルで規制されているのに対し、PFASは"ppt"です。その他の物資に比べて、1/1,000、または1/1,000,000の少なさでも悪さをするということです。


ちなみに紙パックは、古紙回収と別にリサイクルされます。それは、紙パックの芯に使われているパルプは、両面のPEをはがさないとリサイクルできないからです。これは特殊技術のようで、米国では引き受ける業者が限られるようです。また、もし紙パックのPEがPFASで汚染されていると、PEと接している紙も汚染され、その紙がリサイクルされて作られた再生紙もPFASに汚染されたものになります。


以上が中間報告です。身近な容器ですので引き続き研究していきたいと考えています。



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