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監事の役割 What auditors should be prepared to do

  • 執筆者の写真: yd
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  • 2022年5月14日
  • 読了時間: 4分

監事が怠慢だとどういうことになるか。



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本当にあった話。


2022年の現在、日本では大学のガバナンス問題が注目されている。理事長の専断的経営が多くの大学で高等教育に悪影響を及ぼす事態となっている。こうした中で私立大学の理事会のガバナンスを改革するための動きが、理事会のガバナンスを定める私立学校法の改正に拍車をかけている。


2020年の春に施行された改正私立学校法では、理事評議員及び監事の善管注意義務が明記された。 善管注意義務とは、法律や大学の学則及び規定に基づき、自らの任務をちゃんと履行しなさい、そうでなければ法律に基づく責任を果たしていないことになりますよという意味である。中でも監事の職責は、大学経営に責任を持つ理事や評議員とは異なり、客観的中立的な立場から大学の経営に不都合がないか常時監視する役割である。


某大学では理事長が規程に基づき監事2名を選任している。うち1名は弁護士、もう一名は大使経験者である。大所高所から自らの専門性を生かして大学経営を見守り、必要に応じて助言や報告を行うのにふさわしい方々である。ただしご多分に漏れず2名ともこの大学の前理事長が大学との関係の深さを考慮して招致した人達であった。


他のブログのページで紹介しているようにこの大学では、理事長が学長に辞表を強要するという前代未聞のスキャンダルが発生した。学長Aは改正されたばかりの私立学校法の善管注意義務に即して、理事や評議員に深刻な事態が生じていることを伝えたが、彼らは理事長のお友達グループなので何も行動を取らなかった。何ヶ月もの間、善管注意義務を怠り、Aから指摘を受けてからも理事長の決断を是認する態度を取り続けた。Aは文科省に定期的に報告に行ったが、私立大学の自治の観点から、あからさまな法令違反がなければ介入はしにくいと言われていた。


困ったAは、監事の弁護士事務所に相談の電話をしたが、あからさまに居留守を使われたので、何か不穏なものを感じつつ、直接弁護士事務所を訪問した。すると、小さな事務所なのに長く待たされた挙句に出てきた監事弁護士本人が、この大学とは先代の時代からの長い付き合いがあるので今回のケースではAには協力できない、と臆面もなく理不尽な回答をした。Aは、曲がりなりにも相談に行った相手は監事を務める弁護士なので、法律的な回答を期待していた。しかしその監事は、人間関係と委託契約を理由に、白昼堂々と監事としての善管注意義務を怠り、改正私立学校法を破る違法行為を行ったのである。


この事例で明らかなように、理事長が監事を選べるような現状では、監事に自立性や客観性を求めても無駄である。本来的に監事は学校法人と委託契約を結んで仕事をするが、監事の職責は学校法人の代表者である理事長の方を向いて行うべきものではない。その学校法人の背後にある全てのステークホルダー(利害関係者)のために、自立性と独立性と客観性をもって法律的にも倫理的にも、監事一個人として正しいと思うことを貫くことが求められている。だから監事に法律の専門家や公職の経験豊かな人が選ばれることは当然と言って良い。しかしこの例でもわかるように、そのような適任者であっても、いざ学校法人の理事長を糾弾しなければいけないような事態に直面すると、委任契約の解除を恐れて、法律で定められた善管注意義務も果たせなくなってしまうのだろう。


冒頭で監事の職責にある人は理事や評議員と異なり独立性や中立性がより強く求められると書いたが、理事が評議員も、法律の遵守義務はあるし、倫理的に正しいことを主張するべき立場の重要な役職である点は、監事となんら違いはない。


現在幅広く問題とされている大学のガバナンス問題の根幹は、理事会の専横問題である。口うるさい大学教員たちを封じ込めたい文科省は、理事会(長)権限を強める方向で大学のコントロールを図る方針だが、その認識は実態と著しく乖離していると言える。霞が関のこうした方針は、学術会議任命拒否問題を引きずったままになっている永田町のアカデミズム軽視と軌を一にしている。それについては新しいページで改めて整理したい。







 
 
 

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