大学におけるハラスメントの現実 Power Harassment at a Japanese University
- yd
- 2022年4月3日
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一般企業と同じく、大学にはハラスメントの訴えを受け付ける窓口があります。ある大学では、専任教員・職員で構成されるハラスメント防止・対策委員会が窓口となっています。同委員会規程では、原則2週間以内に速やかに3つの対応策のうちどれかを実施すると定められています。3つの対応策とは、
1 加害者に通知し改善を要請する
2 調査は行わず解決策を調整する
3 調査委員会を設置する
です。この部分はどこの大学でも標準的な対応策と思われます。同委員会はハラスメントの訴えを受ける窓口ですが、ハラスメントの内容の調査は行わないし、ハラスメントの認定もしない、という形です。
ある教員が、前例のない形で、定年後の再雇用を拒否され、学部でも人事部でも説明が不十分だったので、学内のハラスメント委員会に訴えました。委員会は、その後その女性教員が何回問い合わせても、「案件が複雑なので、原則として2週間とされる対応策決定の期限は守れない」と放置しました。挙句の果てには、10週間も経ってから、委員会は被害者に書面にて、ハラスメントにはあたらないから委員会としては対応策はとらない、今後委員会には連絡しないように、との通告したのです。結局その教員は、再雇用の希望が叶わないまま退職しました。
ハラスメント委員会が学内規程違反をした挙句、被害者に寄り添わない姿勢で臨むのは二重被害を発生させますが、例外的なことではないようで、外部の独立系の教職員組合に問い合わせたところ、ハラスメント委員会のいやがらせは珍しくないとのコメントがあったとのことです。一般企業ではハラスメントの受付窓口は、法律に基づき社外に設置する方向になっています。それでも握り潰しはあると思いますが、国立大学では徐々に進展しています。私立大学ではそういう動きは遅れています。
ハラスメント委員会だけではありません。職場環境の維持増進の担当は人事部ですが、このハラスメント案件では特任教授としての推薦は学部マターだから、人事部は学部に任せているとして、事情の聞き取りも拒否しました。学部は学部長が学科長と口裏を合わせて、合理的な説明をしないまま無視と切り離しのハラスメントを教授会の場でも続けました。明らかに前例と異なる判断をしたのに前例を変えたわけではないとか、着任する教員に担当してもらうからと言って取り上げた科目はその後いつのまにかその着任教員の担当ではなくなっていたとか、新しい科目を担当する場合は一般公募サイトに応募せよとか、大学の常識ではおよそ考えられないことを突きつけてきました。
ハラスメントを予防すべき委員会が自ら規程違反をしたので、その被害を受けた教員は文部科学省に報告しました。担当官は、監督官庁として大学に直接問い合わせて対処したい、ただ、明らかな法令違反があるような場合を除いて、大学の自治に介入することはなかなか難しいと判断せざるを得ないと言ったようです。これは文科省の立場としてわからないではありません。教育機関としての大学の自治は、1960年代の大学紛争時に警察権力が大学キャンパスに入り込んだ事例を持ち出すまでもなく、最大限尊重されるべき価値だからです。
他方、2021年秋の日本大学の理事長逮捕のケースに見られるように、日本の大学のガバナンスは綻びてきているので、学校法人に適用される「私立学校法」の改正が繰り返される事態になっています。理事会・理事長の専断をどのように防いで、職場環境を維持増進するか。今回ご紹介したケースでは、ハラスメント委員会が調査委員会も立ち上げずに門前払いをした形ですが、理事長も熟知していたケースであるにもかかわらず、理事長は介入せず放置しました。仮に被害認定した委員会報告書が雇用主である理事長に提出されても、この大学の規程では、理事長は報告書の勧告に従う必要はありません。裁定は、理事長次第、執行部次第なのです。理事長が関与するハラスメント事案であれば、ハラスメント委員会の独立性や、対応策の公平な実施は不可能です。被害女性の同僚のアメリカ人教員は、ハラスメント委員会報告は理事長に最終的裁量権があると聞いて、目を丸くして呆れていたのことです。
このケースは、公開質問の形で半年間6回の教授会で応酬があったそうです。その間、教授会に出席している教員や職員は、フリーズしたままひとことも言葉を発しませんでした。学部長や学科長からの報復が怖いのでしょう。結局、同じ年度末に退職する他の複数名の専任教授は、通常通り特任教授として推薦を受け残留しましたが、この教員だけ個別攻撃をされて再雇用されませんでした。権力の濫用です。権力を持つ者はそれを抑制的に使うべきところ、学部長、学科長、人事部長、ハラスメント委員長がこぞって、すでに説明したのでこれ以上話すことはない、と面会も拒否する態度は、本当に見苦しいものでした。
つい数週間前に、フリーズした米国コロンビア大学の教授会の話がニューヨークタイムズに掲載されていました。心理療法の重鎮ジェフリー・リーバーマン教授が、一言不適切なツイートをしたことで、その後心からのお詫びをしたにもかかわらず、3つの重要なポストについて辞任、停職、資格剥奪の憂き目にあったケースです。
Lieberman has resigned from his position as executive director of the New York State Psychiatric Institute, was suspended by the university and will no longer serve as a psychiatrist in chief at NewYork-Presbyterian/Columbia University Irving Medical Center.
コロンビア大学同僚のジョン・マコーター准教授が勇敢にも投稿したこの記事はこう締めくくられています。
Too often, in reality, we stand by and say nothing as we watch expulsions that we know to be unfair, out of fear that we’ll be next.
「現実にはたいていの場合、私たちは、その場に立ち尽くすだけで何も言わず、追放が不公平だと知りながら黙認する、自分が次にいじめられるという恐怖を抱きながら。」
リーバーマン教授のケースは、米国の現在のキャンセルカルチャーを象徴しているように見えます。日本のケースとはケースの内容や前提が異なります。しかし、それが間違っていると知っていながら、誰も教授会で発言できないという事態は異常です。期せずしてこういうフリーズが、洋の東西を問わず、差別やハラスメントの場面で繰り返されていることを知りました。
There was a harassment case in a private university in Japan, in which a professor was not permitted to sign a new part-time contract after retirement. The dean of her department gave no convincing reasoning to treat her differently, when her retiring colleagues were granted a new contract, as has long been the case at her university. In essence, she was targeted. After her university's human resources manager refused to discuss this with her, she filed a case with the university's harassment committee. The rules and regulations require the committee to select an approach within two weeks, without judging whether the case in fact constitutes harassment. Instead, the committee ignored multiple requests from the complainant, and shelved the case for ten weeks, after which it sent a two page report dismissing the case. It also refused to receive questions from her or to meet her to explain the case.
All the parties involved in the harassment failed to give any meaningful reason to support their decision to ignore her.
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