気候変動はまだ決着していない
- yd
- 2021年11月18日
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ニューヨーク大学スティーブン・クーニン教授が、科学的に冷静に気候変動に対処しようと呼びかけています。
先週までイギリス・グラズゴーで開催された国際会議の熱でわかるように、気候変動の「危機」をめぐって、NGOやメディアなど多様な人たちが即時の脱炭素化などを提唱しています。また科学者・研究者たちは、人為的要因による地球温暖化に警鐘を鳴らしているように見えます。他方、保守派政治家や財界人には温暖化対策への慎重な意見が目立ちます。
スティーブン・クーニン教授は、民主党政権のオバマ大統領の米国エネルギー省科学担当次官を務めた人物です。専門分野は物理学、天体物理学、計算科学(scientific computation)、エネルギー技術と政策、および気候学で、200以上の査読論文を書いた重鎮です。2004年以来気象のエネルギー技術への影響を探究してきたシミュレーションの第一人者です。その研究者が2021年5月に書いた本が議論の的になっています。
Koonin, Steven (2021). Unsettled --- What climate science tells us, what it doesn't, and why it matters. Dallas Texas, BenBella Books.
クーニン氏は、2014年にウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿したあと、それを発展させる形で今回2021年の著書を出版しました。世界の主要メディアは、人為的な気候変動についてもうコンセンサスはとれているという前提で報道しているのに対して、クーニン氏は、米国政府資料やIPCC報告書は正確に報道されていない、と主張しています。メディアには視聴率、ジャーナリストにはトップ記事の名誉、NGOには寄付、政治家には選挙、という事情があり、扇動的な情報が流布していると批判します。だからクーニン氏は著書でも、自分が述べるすべてのことはIPCCや米国政府資料に依拠している、スティーブン(クーニン)が自説を述べているのではない、資料に基づく科学的知見を正確に伝えようとしているだけだ、と述べています。
また、著書Unsettledの5ページで紹介しているように、著名大学の地球科学分野の学部長ですら、個人的に「私はあなた(クーニン氏)が書いてあることにほぼ同意するが、公にそれを発言する勇気はない ("I agree with pretty much everything you wrote, but I don't dare say that in public.")」と漏らすように、科学者・研究者ですら、主流の意見に反することはなかなか発言できないというのです。
私はこれは驚くべきことだと受け止めています。もっとも私も日本で、気象学の研究者が科学研究費申請に際して、人為的温暖化に疑義をはさむと採択されないので、やむなく肯定的な申請書を作成していると発言したのを聞いています。
本書の冒頭から抄訳します。
「地球が温かくなっているのは本当だ、人間が温暖化に寄与していることも事実だ。しかし、、、現在主流となっている科学が主張していることは正しくない。」
「たとえば、気候科学の現状をまとめる研究書も政府報告書も、現在の米国の熱波は1900年より頻繁とは言えないし、米国のもっとも高い気温は過去50年間上昇していないとはっきり記載している。私がこれを言うと、ほとんどの人が信じてくれない。ため息をつく人もいる。激しく敵対的になる人もいる。」
「あと3つ読者を驚かせる事実を最近出版された研究書や米国政府と国連が出版した最新の気候科学の評価から直接引用しよう。
・人類は過去1世紀間、ハリケーンに対して感知できるインパクトを与えていない
・今日グリーンランドの氷は80年前より速い速度で収縮しているわけではない
・人間が引き起こした気候変動の純経済的インパクトは、少なくとも今世紀末までミニマル
[最小限]に止まる」
これらの引用からもはっきりわかるように、クーニン氏は公開された報告書や資料の内容を伝えていますが、読書である私たち市民は、それは報道されている内容と大きく異なると感じるのです。
2021年9月の短いトーク↓は、クーニン氏の主張のエッセンスをカバーしています。クーニン氏は、IPCCレポートと米国政府資料に100%依拠しながら説明しています。
・途上国の30億人が必要としているエネルギーは、化石燃料で供給する他ない、
・気候モデルは参考になるが不確実でありリスクが高い、
・脱炭素化は急ぎ過ぎれば設備の償却が間に合わずエネルギー供給が不安定になり高コストになる、
・遅過ぎれば気候変動の悪影響が大きくなりすぎる、
・気温3度上昇を許容しても2100年までの経済成長は計画より2年くらい遅れる程度だ、
・ハリケーンが世界規模で増加しているというデータはない、
・IPCC報告書ですら、ハリケーンについて長期的な傾向はないと書いている、、。
スティーブン・クーニン氏は、自分はIPCC報告書や米国政府資料に反論していない、専門外の一般の人たちに、IPCC報告書や米国政府資料に書いてあることを正確に伝達しようとしているだけだ、私は何も否定していない、私は人為的温暖化懐疑論者ではない、と力説しています。
2021年10月20日、米国パーデュー大学での学生向け学長との対談はわかりやすい解説になっています。学生代表数名の質問に丁寧に答えつつ、IPCC報告書と政府資料をきちんと読めば、気候(climate)と気象(weather)を混同しないで、科学的な見地から判断することができる、短期的な気象の変化に惑わされず、CO2以外の多数の気候変動要因にも気を配り、多額の予算は気候変動対策より深刻な貧困や蔓延する疫病など、より重大な課題に振り分けるべきだ、と主張しています。
私は別のブログ項目ですでに紹介したアイルランドの気候学者Ray Bates氏のビデオインタビューでクーニン氏の著書を知りました。ベイツはクーニンの主張を全面的に支持しています。
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