キッチンの排気ガス汚染 Air pollution in the kitchen
- yd
- 2022年3月13日
- 読了時間: 7分
更新日:2022年4月3日

おうちで料理する時に発生する気体は、家の中の空気をよごします。日本では多くの家庭で天然ガス(都市ガス)、プロパンガス、または電気調理器が使われています。このブログでは、最近気になった記事を中心に考えてみます。
なお、発電所のエネルギー源についてはここでは考慮外とします。キッチン室内の汚染、および換気扇で屋外に排出する気体について、主として健康被害の観点から考えます。キッチン以外で室内の空気を汚染する原因物質は、建物やインテリアの建材の化学物質(いわゆる「シックハウス」症候群)、暖房の熱源(特に石油ストーブ)、ごきぶり・蚊の殺虫剤、洗剤の香料、カーペットの有機フッ素化合物もありますが、これらは項目をあらためて検討します。
途上国においては、100年前の日本の土間の「台所」のように、今でもマキその他の可燃物を燃料として、たくさんの煙を出して調理し、都市部の車の排気ガスとともに、呼吸器系の疾患を招きます。他方21世紀の現代日本では、都市部・地方を問わず、調理にはガスか電気を使います。
ここで取り上げるのはキッチンで調理する時に発生する物質です。熱源であるガスから発生するものと、加熱することで食材から発生する物質とがあります。
1 ガス
天然ガスは90%がメタンガス(methane)です。LPG(プロパンガス)は、プロパン(propane)とブタン(buthane)というガスからできています(INPEX社のプロモーションサイトはわかりやすい図解があります↓)。石炭や石油と比べて、硫黄化合物(SOx)は出しませんが、一酸化炭素(CO、特に不完全燃焼した場合)、二酸化炭素(CO2)、窒素化合物(NOx)は排出します。室内の酸素は消費するので、換気するだけでなく酸素を含む外気を導入する必要があります。なお、メタンの燃焼は、
CH4+2O2→CO2+2H2O
と書きますが、実際にはたいへん複雑な過程を経て最終的にこのような形に記述できることのようで、すべてのプロセスが解明されているわけではありません。不完全燃焼をして一酸化炭素(CO)が発生するだけではなく、その他の化学物質や粒子も発生します。これらは一般に煤(すす)として目に見えるものにもなりますが、PM2.5のようにさらに小さな微粒子となることもあるでしょう。これらは呼吸器系の疾患に結びつくことがあります。
すすは100-1000nm(ナノメーター)前後(=0.1-1.0μm)、PM2.5は2.5μm(マイクロメーター)で目に見える限界のサイズです。こうした粒子がガス調理時に発生しています。
INPEXサイト
2 電気
IHヒーターおよび電熱調理器は、調理の際に排気ガスは出しません。その代わり、このブログのメインテーマではありませんが、特にIHヒーターは電磁波を多く発生させます。電気が通ると必ず電磁波が発生するので、電熱調理器(ニクロム線が露出しているもの、ニクロム線が補強されて太くなっているシーズドヒーターのもの、ガラスのクッキングトップの下に電熱線が配置されているもの)も電磁波を発生させます。電磁波を多く発生するという点では電子レンジと似ていますが、電気スタンドからスマホまで家電製品はすべて電磁波を発生します。心臓ペースメーカーを装着している人は要注意です。キッチンのクッキングトップはちょうど腰からおなかのあたりの高さなので、妊婦もできるだけ離れた方がいいと言われています。電磁波は出力に応じて発生しますが、距離の二乗に反比例するので、10-30cm離れるだけで著しく減衰します。IHヒーターが電磁波をより多く発生するのは、出力が強いものが多いからと思われます。しかし我が家の電熱調理器(非IHヒーター、ガラストップのもの)も相当な電磁波の発生(50-100mG)を確認できました。
ブログサイトでIHヒーターの電磁波の測定をしているものがありました。たいへん参考になります(ブロッガーさん、ありがとうございます)。
http://ihreport.wp.xdomain.jp/sokutei
3 食材から発生する汚染物質
熱源がガスであれ電気であれ、食材を加熱すると気体が発生します。ゆでたり煮たり蒸したり場合は、発生するのは主として水蒸気(H2O、つまり水)ですから、あまり心配はありませんが、それでも食材に含まれる農薬や化学肥料、ホルモン剤、は水蒸気の粒とともに室内に放出されます(これは推測です)。
より深刻なのは高温で煙を出す調理方法です。炒めたりグリルしたりすると臭いが発生しますが、これは臭いの粒子が拡散したことを示します。ごく微細な粒子PM2.5は調理からも発生します(環境省サイト参照のこと↓)。
中国清華大学の調査研究によれば、次のことが指摘されています。たいへん興味深いです(日本の科学技術振興機構サイト↓参照のこと)。
室内PMの発生源は調理と喫煙で、調理の割合は最大70%になることもある。キッチン内ではPM2.5濃度が数100~数1000μg/m3に上ることがある。重度汚染とされるレベルは250μg/m3である。調理時の熱源から発生するPM2.5の表面に炭化水素や重金属が付着し人体に入り込む。薪や灯油に比べて天然ガスや電気調理の場合は、微粒子の発生度合いは小さくなる。
炒め物をする時、蒸す・煮るに比べて食材から40倍のPM2.5を発生させる。油を発煙するまで加熱すると、発煙点以下に抑えた場合に比べて、PM2.5の発生は300倍以上になる。オリーブオイルはその他の油に比べて、PM2.5の発生はいちばん多い。調理後しばらく換気扇を回しておくこともPM2.5抑制につながる。
環境省のQ&A
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info/attach/faq.pdf
科学技術振興機構の記事
https://spc.jst.go.jp/news/190702/topic_2_05.html
米国の最新事情
スタンフォード大学の最新の研究では、ガスレンジは米国環境保護庁(EPA)の従来の見解よりはるかにキッチンの空気を汚染していることがわかりました。要約は次の通り。
ガス調理器具は温暖化ガスであるメタンガスを発生させている。また二酸化窒素も発生させていて、喘息その他呼吸器系の疾患を生じさせうる。
米国では全世帯の1/3にあたる4000万世帯が天然ガスで調理する。カリフォルニア州では60%がガス調理である。この研究ではカリフォルニア州7群の53世帯で調査を行った。全米の全ガス調理台はガソリン車50万台と同量の環境温暖化インパクトがあることがわかった。メタンガスは環境負荷が高い。メタンガスの放出の3/4はガス漏れで生じるが、二酸化窒素は主として調理中に発生する。
EPAは今までガスメーターでの計測後(post-meter)の温暖化ガス排出は計測してこなかった。EPAは室内空気汚染は、クリーンエア法の規制外としているが、2018年に、二酸化窒素の屋外の基準を100ppbとした。喘息や気管の炎症をもたらすからである。
この研究で、換気扇を使わない家庭や換気が不十分な家庭では、このEPAの屋外基準を調理開始後数分で突破してしまうことがわかった。
ニューヨーク市は2021年12月、化石燃料産業と不動産開発業者の反対を押し切って、新築ビルのガス使用を禁止した。民主党多数派の同市議会は7階未満の新築ビルは2023年末までに電化を義務付け、高層ビルは2027年まで猶予されるという法案を可決した。
近年、民主党が優勢の地域では、カリフォルニア州だけでなくボストン、デンバー、シアトルなど大都市から、ガス廃止の動きが強まっている。2022年1月、ニューヨーク州キャシー・ホークル知事は、2027年までに州全体でガス廃止法案を提案した。ガス事業者は反対している。IHヒーターは設置費が高いが、ガスレンジより半分くらいの時間でお湯を沸かせるとされる。
2022年ワシントンポストの記事
https://www.washingtonpost.com/climate-environment/2022/01/27/gas-stoves-kitchens-pose-risk-public-health-planet-research-finds/
[Environmental Science and Technology誌記事に基づく]
まとめ
日本では天然ガスとプロパンガスを使った調理が主流で、60%を占めます。ガスと電気は一長一短ありますが、電気が優れている点は、このページで扱ったように、
① 室内大気汚染が少ない点
に加えて、
② 火災の心配が少ない
③ やけどの心配が少ない
の3点です(③について、電気コンロタイプは調理台が熱くなりますし、IHヒーターも鍋は熱くなるのでやけどの心配ありますが、ガスの炎が袖に燃え移って大火傷することはありません)。電気調理器を推奨するブログではありませんが、米国の趨勢は見逃せないと思います。室内大気汚染だけでなく、屋外への排気ガスも少なくなるので、特に都市部の屋外住環境の改善につながるように感じます。他方電気調理器の電磁波障害は覚えておく必要があります。現代社会の宿命でしょう。
ガスでも電気でも、調理する時に食材から発生する汚染物質は変わりません。室内の汚染を下げる場合は、できるだけ100度前後で蒸すか茹でるか煮るかにする、フライパンで炒めたりローストしたりする時は、油煙が上がらない程度の低めの温度を心がけることが大切です。別のページで記載したテフロンコーティングのフライパンは、特に通常の200度前後を超えた高温になると、小鳥が死ぬほどの有毒ガスを発生します。人体に対する発がん性などの影響も明らかになってきています。これも、エネルギー源に関わらず深刻な注意点です。
その他、キッチンの大気汚染については以下の記事がありました。
換気の重要性について
2013年のニューヨークタイムズの記事
熱源による大気汚染と食材加熱による大気汚染
1977年のニューヨークタイムズの記事
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Abstract: Gas stoves pollute the air inside and outside the kitchen, though much cleaner than wood or kerosene stoves. Food grilled or roasted at high temperatures emits various gases and particulates harmful to humans. There is a growing trend in the US banning gas stoves in new buildings.
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