The Role of glutamate and NMDA receptors in Alzheimer’s disease グルタミン酸とアルツハイマー病の関係(科学論文の紹介)
- yd
- 2023年3月12日
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図の出典
2017年に、グルタミン酸が多くなりすぎると興奮毒素としてグルタミン酸受容体を破壊し、神経細胞死をもたらすので、アルツハイマー病を発症させるとする研究が出ています。この論文は、米国NIH (National Institute of Health)の全米医学図書館の全米生物技術情報センターのデータベースに掲載されています。2名の研究者は、いずれも膨大な査読論文を精力的に公開し続けている研究者です。
Rui Wang: Garrison Institute on Aging, Texas Tech University Health Sciences Center
P. Hemachandra Reddy: Professor, Department of Internal Medicine Professor, Neurology and Neuroscience/Pharmacology, Texas Tech University Health Sciences Center
要旨(アブストラクト、英文)の邦訳を掲載します。
「NMDA受容体を通じた興奮毒性のあるグルタミン酸作動的神経伝達は、シナプスの可塑性と神経細胞の生存に不可欠である。しかしNMDA受容体の過度な活動は興奮毒性をもたらし、アルツハイマー病で起きる神経衰退の潜在的メカニズムとなる細胞死を促進する。過去の研究では、NMDA受容体が介在する反応の際立った結果は、特定の部位で受容体の活性によって生じ、異なる後続の信号経路につながる。シナプスによるNMDA受容体の活性化は可塑性をもたらし細胞のサバイバルを刺激する。これに対して、シナプス外からのNMDA受容体の活性化は細胞死を促進し、アルツハイマー病の原因となる。これは、シナプス外のNMDA受容体の機能を選択的にブロックするNMDA受容体拮抗薬のメマティンによって抑制することができる。」
解説
アブストラクトの翻訳は以上ですが、これをわかりやすく書き直すと次のような内容になります。「グルタミン酸をたくさん摂取して脳神経細胞のグルタミン酸受容体という信号伝達組織を過剰に刺激すると、神経細胞死につながり、アルツハイマー病を発症する。」
補足すると、昆布やトマトから放出される遊離グルタミン酸の量に比べて、水溶性のグルタミン酸ナトリウム(「味の素」の主成分、「調味料(アミノ酸等)」)から放出される遊離グルタミン酸は膨大であり、人間の体のメカニズムは高濃度・多量の遊離グルタミン酸に適応できません。それらが神経細胞のグルタミン酸受容体を過度に刺激し、興奮毒素として神経細胞死を生み、アルツハイマー病その他の神経性疾患をもたらします。この論文ではアルツハイマー病だけに触れていますが、実は、パーキンソン病、ハンティントン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、ADHD(注意欠如・多動症)その他多くの神経性疾患も引き起こすことが科学的に明らかになっています。
グルタミン酸は非必須アミノ酸であり、不足すると健康を害しますが、多すぎても大問題になります。過剰になりやすいのは、グルタミン酸ナトリウムが水に溶けて簡単に遊離グルタミン酸を放出するからです。重要なアミノ酸なのに諸刃の剣となることは、肝に銘じておく必要があります。
アブストラクトを翻訳した2017年論文
アブストラクト全文
Excitatory glutamatergic neurotransmission via N-methyl-d-aspartate receptor (NMDAR) is critical for synaptic plasticity and survival of neurons. However, excessive NMDAR activity causes excitotoxicity and promotes cell death, underlying a potential mechanism of neurodegeneration occurred in Alzheimer’s disease (AD). Studies indicate that the distinct outcomes of NMDAR-mediated responses are induced by regionalized receptor activities, followed by different downstream signaling pathways. The activation of synaptic NMDARs initiates plasticity and stimulates cell survival. In contrast, the activation of extrasynaptic NMDARs promotes cell death and thus contributes to the etiology of AD, which can be blocked by an AD drug - memantine, an NMDAR antagonist that selectively blocks the function of extrasynaptic NMDARs.
昆布から溶出する遊離グルタミン酸の量に関する研究は、改めて紹介します。
参考文献
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